ドフラミンゴのそっくりさんと人間屋
シャボン玉とか遊園地とかもうね、生きててよかったと思った瞬間。帽子のニーチャンについてきてよかった。マジで。 最初は絶望したり呪ったり雑な扱いに嘆いたり戦闘が怖すぎて震えたりしたけど、感謝してます本当に。 いつまで俺この船乗らなきゃいけねぇんだいつ返してくれるんだこのチンピラニーチャンこの野郎とか思っててゴメン。シャボンディ諸島最高。メルヘンワンダーランドだわ探し求めた黄金郷、伝説の島の夢の島。 俺ここ住みたい。
「……キャプテン?」
そしてそんなことを思ってはしゃいで観光してたら、見事に帽子のキャプテンとはぐれました。まじウケるんですけど。
ベポ五郎とか目立つから追跡余裕だしまじウケるー、とかぶっこいてた愚か者の末路がこれである。 シャボン玉とか景色に目を奪われていたら光のようなスピードで見失った。 キャプテンに「お前は勝手にどっか行くな」と言われた矢先にこれだよ。馬鹿につける薬はないとかいうけど、本当それだな。どうしようペンギンも、シャチだっていねぇぞ。こんな広い所で……俺終わったな。
もうこうなったらやけくそで、どんな距離だろうがここから船こいで家まで帰ろうかなんて現実逃避をしたが、そもそもここが地図上どこにあるのか把握してなかった。 俺の家ってさ、どっち方面にあるの。
ともかくローキャプテンとかベポ五郎とか見つけないと、俺がここでのたれ死ぬ。飢え死にする。 今、俺の手元にあるのはキャプテンからおこずかいでもらった500ベリーと、ポケットの中にアメが一個。これ、1日食いつなぐのも無理じゃん。晩にはお腹すくわ。
というわけで、あいつらを早く見つけようとよくわからないこの広い諸島を適当に観光しながら徘徊していた訳だが、なんかいつの間にか結構危険な場所に入り込んでしまったらしく、犯罪者というか悪そうなオッサン達に「大人しくしろ!」とか言われて銃突きつけられて捕まりました。はい俺の人生終了。 なにこれ冗談抜きで笑えない。
俺はオッサン達が銃持っててすげー怖かったので無抵抗だった訳だが、顔の怖いオッサン達はそんな無抵抗ないたいけな俺を捕まえて袋に詰めて縛って拉致した。 ちなみに言っておくが、そういうプレイじゃない。 マニアックすぎるだろ。 というか、オッサンと俺とか誰が得するんだ。
最初は「キャーオカアサァァン拐われるゥゥ」とか言ってみてたが、うるせぇぞテメェ!とか言われて蹴られたんで黙った。痛いよ。オッサン怖いよ。 そもそも周りに人いなかったから、叫んでも変わらないがな。
痛いのは嫌なので大人しく捕まって、ぐだーっと力抜いてリラックスしてたらなんか檻みたいなとこに入れられて首輪をはめられてなんか手には鎖が。 ちなみに、そういうプレイじゃない。
「いや、ちょっと待てよ、プレイじゃないならなんなんだ……!ここどこだ……?」
「……なんだ知らないのか?」
ジーサンが言うには、ここ人間屋だってよ。ヒューマンショップ。 人間屋……そういうのもあるのか。
人間、売れるものはなんでも売るんだな。人間売るとかもうね……ここまで来ると友情とか勝利とか、国とか売り始めるんじゃないの?でも流石に国はないか。国民とかどうすんだよ。
「というか俺、売られるのかヤベェ」
よく周りを見ると、皆元気が無く項垂れている。それはまるでこの世の終わりのような顔をしている人間が大半だった。普通な表情してるのはジーサンとかめちゃくちゃデカイ、俺よりデカイ巨人族の人くらい。後で巨人族の人に握手してもらおう。やっぱ巨人族の人デカイわ世界は広いな。 あ、人魚の子がいる。かわいい。俺、人魚とか初めて見ちゃったよ。
それにしてもここ、俺が思ってるよりも危険な臭いがするぞ。なんか怖いなオイ。 え、マジで売られんの?俺が?いや、むしろ売れるのか。価値的に5ベリーぐらいじゃね?俺の所持金よりも安いじゃねぇかふざけんな。
キャプテンが白馬の王子様の如く助けに来てくんないかなァとか思ったが、流石にそこまでキャプテン万能じゃないし、そもそも俺なんて助ける義理あんまなさそうだから希望はないに等しい。あのキャプテンが俺を助ける姿とか想像できなくて笑える。
ああ、こんなことならもう少しベポ五郎に抱きついたりふわふわしておくんだったな。ベポ五郎は俺の癒し。寧ろ救いの神。やさしいベポ五郎大好き。 あと、もう少しキャプテンに迷惑かけとけばよかった。せめてもの腹いせに。そういえばこの前、キャプテンの夕飯にこっそり唐辛子入れようとしたらバレて怒られてどつかれたな。今度はバレないように投入してやろうと思ってたんだが。
「おいお前!早く檻から出ろ!」
そんな意味不明な後悔をしつつ座ってぼーっとしていた所で、そう怒鳴られたため大人しく立ち上がった。そんな怒鳴らないでくれ耳が痛い。というか、気がつくと周りの人数が半数くらい減っている。一体いつの間に。
とりあえず檻から出るとき、まだ残ってる皆に振り替えって「じゃ、また後で」とか手振っといたんだが、返してくれたのは白髪のジーサンだけだった。ジーサン優しいなオイ。ジーサンがいい人に買われることを祈る。 でも本命の美人な人魚ちゃんは顔面蒼白で俺のこと見てすらないんですけど。傷付いた。俺は大いに傷付いた。
やっぱり顔面の問題か。サングラスかけた方がいいですか。
「……うえ」
なんか人間屋とか、俺は本とか新聞とかの中だけの世界だと思い込んでたから妙に現実味がない。
売られるなんてまるで他人事みたいだったわけだが、スポットライトとか人がたくさんいる会場とか見てなんか実感した。 そして吐き気してきた。うえええ。
なんだろうこの観客席からの眼差し、まるで無機物の商品を品定めしてるみたい、というか。商品見る目だわ。ペット買いに来たような感じ。少なくとも普通に人間を見てる目じゃない。怖っ。こういうの見たくないな。 なんか気持ち悪くなってきたぞ。頭がぼーっとする。
すると、「グランドライン出身のナマエ!」とかなんとかとりあえず知らんが俺の自己紹介をやってくれたようなので、俺もそれに続くようにひきつる笑顔でニヤニヤ笑いながら「どうも皆さんこんにちは大柄なのしか取り柄がないナマエです。好きなものはケーキとかステーキとか体に悪いもの。嫌いなものはとくにない。好きなタイプはとりあえず俺に優しい人。趣味は自分の内臓観察とキャプテンの夕飯に唐辛子を入れることです。ちなみに暴力は嫌いだ平和主義者だ」と、そう口をついて出た言葉で挨拶したら横の司会っぽい人に超睨まれた。やだ、なにこの人怖い。
あと観客の連中が少しざわついて「なんだあいつ」みたいな視線で見られてるけど俺は別に挨拶しただけだろ、いい加減にしろ!
完観客の連中に、完璧に異端者を見る目で見られているが、知らんな。 そんな空気をどうにかするために、司会のやつが焦りながらも「こ、こ、このように強靭な精神が──」とかなんとか言って体制を立て直そうとしてるのがなぜか俺の涙を誘う……!
しかし、強靭な精神か……ある意味言えてるな。 というか、なんでこんな状態なのに吐き気だけですんでるのか俺の方が不思議でしかたないぞ。まあよくキャプテンにキレられてバラバラにされても、自分の内臓を観察するくらいの余裕のある人間に育ったけどね。ニーチャンよ君のお陰だよ、くたばれ。 よく考えると泣き叫んで喚いたり放心したり死ぬ気で足掻くもんじゃねェの?なんでこんな心のダメージが長年飼ってた犬が死んだときより軽いの? 俺ドMなの?マゾ?いや、ドMでもさすがにこれはねぇわ。
……あ、そっか諦めてるのか。 帽子のニーチャンよ、駆け落ちするなら責任はちゃんととってくれ。まあそんな駆け落ちとかロマンチックなもんでもなかったし、はぐれたの俺だから全部俺が悪いんですけどね。
「サンドバッグはやめてくれ。痛いの嫌だしな。雑用ならまあいいけど、俺は家事が超苦手だから役に立たないって、近所でも専らの評判だ」
悪びれもせずにそう続けると、司会の「さっきからなんなんだお前……!」と小声でそう言われ、睨まれて足を踏まれました。痛い。酷い。 キャプテンの刀突きよりは痛くないけど。あれ最近本気でどついてくるの本当に痛い。
司会の奴が、舞台なので俺にきつく言えなくてイライラしてるのを見てとても満足しました。
周りの観客は超ざわざわしてて、もはやなんか動揺している。 観客とか司会が混乱してたりイライラしてたりする中、奴隷になってる自分だけ比較的落ち着いるのは、よくよく考えると自分に狂気すら感じるぞ。これが本当の鋼鉄メンタル。
司会のやつが仕切り直すように「そ──それでは40万ベリーから!」と声を荒らげて会場の空気が元に戻りそうになったので、なんかムカついてそれに抗議するように俺も少し声を大きくしてオーバーリアクションでこう言う。 せっかく壊した空気を元に戻すなんて許せんよな。
「は?よ、40万……!高すぎ、本当に俺に40万?ボッタクリかよ。今聞いた内容でも俺の価値500ベリーもなかったろ。40万ベリーとかありえねぇ……新手の詐欺かよ」
悪徳商売は駄目だよなァ不良品売り付けるとか意味がわからねぇ酷すぎるだろとか、俺がかなり大袈裟に喚いていたらまた会場がざわついた。ざまぁ。 こんな状況で金額を言う奴なんているはずもなく、皆がみんな、なんだか少し混乱している様子である。 計画通り。ざまーみろ。
ちょっとでも時間稼ぎして、少しでもあの可愛い人魚の子が落ち着きますようにと人魚の子の平穏を祈る。 あー自分のプライドとか犠牲にして人魚の子のために頑張る俺ってイケメンだな。
……というのは建前で、なんとなくムカついているのでこの場を引っ掻き回したいだけだったりする。 人間、最後の最後で目立ちたい。目立って散りたい。
「いい加減にしろこの野郎!!」
「ごめん」
とうとうキレて舞台にもかかわらず怒鳴ってきた司会に、なんか申し訳なくなった。許さないけど。 周りにいたスタッフがつかみかかろうとする司会を止めに入っていて笑えない。 これもしかしなくとも俺殺されるんじゃねぇの。やばいやりすぎた。後悔はしている反省はしていない。
「700万ベリー」
「……ん?」
司会のやつが「は……?」と呟き、意味がわからないというように声の主を見た。俺も呆気にとられてその方を見る。誰だよ俺みたいな引きこもりを買おうとする変わり者野郎は。 するとそこには、顔をひきつらせて頭に手を当て呆れた表情をしているキャプテンの姿が。よく見ると横にベポ五郎とかもいる。俺の癒しのベポ五郎。 いや、いたのか……ぜんっぜん気がつかなかった。キャプテンの帽子とかペンギンの帽子とかベポ五郎とか目立つのに。俺、思ったより緊張してたのかな。観客席ちゃんと見てる余裕なかったみたいだ。
「やだ、白馬の王子様降臨。キャプテンイケメンすぎる今だけ愛してる結婚してくれ」
「……」
なんかキャプテンが生ゴミを見るような目でこっちを見てくる死にそう。白馬の王子様が思いの外冷たい件について。 でもキャプテン、マジでありがとう。 今度ケーキ奢る。もちろんキャプテンからもらった金でな。
「……700万ベリー!それ以上はいませんか!」
会場がしんと静まり返り、700万ベリーで落札ですとかなんとか司会のやつが叫んで俺はキャプテンに700万ベリーで売り飛ばされることになったらしい。 700万ベリー……!?ケーキいくつ買えるんだよ。というかキャプテンそんなに金持ってんのかよ。
その後、なんか誰かがお偉いさん殴って海軍いっぱい来て大変なことになったけど俺はなんとか生きてた。 むしろなんで自分が今も無事でいるのかわからない。キャプテンのおかげだな多分。キャプテンイケメン。
「ナマエ、とりあえず無事でよかった……!」
「心配してくれる天使はベポ五郎だけか」
みんながみんな、帰ってきた俺に対して「お前なんで売られてんだよ」とか「あんま迷惑かけさせんじゃねーよ」とか冷たい言葉ばっかりだ。現実は非情。あまりにも無情。 キャプテンなんて、もはや他人のふりをするようにもはや目を合わせない。酷すぎる。俺なかなか怖かったのに。
「え?オレだけじゃなくて、キャプテンも皆も心配してたよ」
「ベポ五郎のうそつき!天使、小悪魔、大好き!そんな虚しい慰めは悲しくなるだけなんだよというかそもそもキャプテンが心配するはずねぇな」
とくにキャプテンとか心配してる姿が想像できないんだが。なにそれ俺のこと心配してたの?キャプテンが?してたらしてたで、なんか嬉しいよりまずなんかむしろ怖い。絶対何かたくらんでるな。 それか、またはキャプテンは夕飯に唐辛子入れられるのが好きなドMだ。なにそれ変態?キャーマジデーキャプテンの変態。
「でもキャプテン、ナマエがいなくなったからって島中走り回って──」
それを聞いて俺が「は?」と首を傾げ言ったところで、ベポが言葉をそこで区切りばつが悪そうに目を反らし「あ、いや……」と呟いた。 ベポの視界の先を見ると、何故か凄い形相で睨んできているキャプテンがいる。さながら殺人鬼のような顔で恐ろしい。 多分コイツ、いつかとんでもないことをやらかすに違いない。俺いつか殺されるか捨てられるな。
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