ドフラミンゴのそっくりさん3

なんかあれから、半ば強引に引っ張られてというか、もはや引きずられてというか、バラバラにされて俺は見知らぬニーチャンに連行された。

イヤー誘拐よー、海軍サーン、タスケテーとか喚いてみたが、まあ俺がピンチのときに颯爽と現れるイケメン海軍サンなんているはずもなく、周りの住人たちは遠巻きに怪しいものを見る目で見てくるだけで、俺と関わりたくないオーラがプンプンしている……あ、これ無理だわ。俺助からねぇな。
なんか世間の風が予想外に冷たくて笑えない。

というか、そもそもこんな巨体がこんな標準体型のニーチャンに連れ去られるとか、どう考えても物理的におかしい。このニーチャン超力強い。すごく怖いです本当にありがとうございました。

なにこれ、俺このまま連れていかれるとどうなっちゃうの?もしかして、夕飯のおかずになるの?ステーキ?今日の夕飯は新鮮なステーキなの?人狩り行ったら見事に三メートル級の大物がかかったの?

生きのいい肉使ってますねぇ奥さん今晩ステーキですか?
ええそうなの取れたてピチピチよ。

なにそれ洒落にならねェよ泣きそう。


連行されてとうとう船みたいなのに乗せられ、もはやどうでもよくなって死を覚悟した俺は特攻隊員のような気分だった。
ニーチャンが船のドアを開けた瞬間に「お帰りなさい、帽子のニイチャン。今晩はカレーにする?シチューにする?ハンバーグ?それともワ、タ、シ?」と語尾にハート付けたような感じで今世紀最大の自虐ネタをしてやったところ、ニーチャンにひきつった表情で「お前もうその姿と声で喋るな」と言われました。
つらいね。


「キャプテン──あれ、その人は?」

ドアを開けると、その目の前にはまさかのくまがいた。
帽子のニーチャンに捕まっている俺を見てキョトンとしている。かわいい。
白い、かわいい、くまがしゃべっている。
これは、モフモフ、くまさん。

熊、さんだと…!

ある日、船のなか、くまさんに、出会った、人生の終点地、くまさんに出会った。

俺の頭とうとうショートして視界機能が壊れたか。
いや、違う、これは背中にチャックがある系熊だ。騙されるな俺。だって熊がこんな可愛いわけない。熊は狂暴で乱暴でハチミツばっかり食ってて冬眠するってカーチャンが言ってたもんね。
だからこいつはきぐるみだ。

「俺は今晩のおかずだ。よろしくなクマ五郎」

何か言いかけた帽子のニーチャンの言葉を遮り、俺がそうきぐるみの命名クマ五郎にぱちりとウインクすると、クマ五郎は面白いくらいガタガタと震えはじめて「えええええええ!キャ、キャプテン!お、おかずってなに!!?」とか凄い動揺した様子でニーチャンに詰め寄った。
そんなに動揺してかわいいやつめ。

「なんだよクマ五郎。そのままの意味に決まってんだろうが、ステーキだよ」

「す、す、ステーキ!?えええええええ!!?」

クマ五郎が必死の形相で「キャプテンそんなにお腹空いてるなら、俺の夕飯のグラタン少しあげるから早まらないで!!」とか言ってるの見て正直超かわいいと思いました。というか可愛すぎる抱きつきたい。
こんな可愛いくてキャプテン思いの部下がいるなんて、帽子のニーチャン幸せもんだなちくしょう。俺に下さい。

とりあえず帽子のニーチャンが動揺しているクマ五郎に「おかずじゃねぇ」と呆れた表情で言って、俺はその後すぐに流れるような動作で腹を刀でどつかれた。
それ地味に痛いから止めてくれよ。



「な、なんだ、夕飯っていうのは嘘なんだね……よかった……!」

「そうだな。今日の夕飯はクマ鍋だからな」

安堵の表情を浮かべていたクマ五郎に俺が親指を立ててそう言ってやると、クマ五郎は涙目になって恐怖の表情を浮かべぷるぷる震え始めた。
くそ、かわいいやつめ。なにこいつ可愛い。どうしようこのクマのきぐるみ超かわいいんですけれど。
この殺伐とした場所に舞い降りた天使かよちくしょう。

そう思って俺がクマ五郎に可愛いとか叫びながら飛び付いて抱きつこうとした瞬間に、もはや職人技のようなスピードで俺のみぞおちに帽子のニーチャンの刀の柄がおもいっきり突き刺さった。鈍い音がした。痛いよ。本日この攻撃は三度目で、思わず「ぐえっ」と呻いて膝をつく。
このニーチャン……慣れてきてやがる。この手つき、職人のそれだ。コワイ。

「……あと、コイツはクマ五郎じゃねぇベポだ」

まじかよ。クマ五郎の方がしっくりくるのに。
でもベポって名前もなかなか可愛いじゃねぇか。たしかにベポって感じがする。ベポベポ。可愛い。
ためしに持ってたサングラスを装備してみたら「うわああああ」ってめっちゃ驚いてくれた。白いくまさん可愛い。



「あ、キャプテンここにい──うわあああああドフラミンゴ!?というかデケェ!」

「はぁ?ドフラミンゴ?お前何言って……えええええええええ!!!?」

すると、唐突にドアが開いて入ってきた数人の奴の一人が、サングラスをかけた俺を見るなり驚いてそう叫んだ。デケェとか言うな傷つくだろ気にしてんだよ。標準身長の貴方達にはわからないでしょうねェ!
というかやっぱグラサンかけたらそんな似てるのか。

目の前のやつの帽子に文字が書いてある。なにそれわかりやすい。でも何故帽子の一番目立つところに。
なんて書いてあるんだ。なになに、PENGUIN?

「ペン……グイン?……ペン……グイ──ペングン。ペングンか。はじめましてペングン」

「なんでそうなった!?」

ペンギンだ馬鹿野郎!と言われて、たしかに言われてみるとペンギンだった。なんだただのペンギンか。なるほどそう読むのね。これ間違えるとか重症だな。


「──で、ドフラミンゴじゃないみたいだな。お前誰だよ」

「俺か?俺はお前らの今夜の夕飯。ステーキ」

「はあああ!?怖ぇなオイ!!この船に人肉食のやつなんていねぇよ!
…………あ、ま、まさかキャプテン……?」

帽子のやつが後退りしながら少し驚いた様子でニーチャンを見つめて、すぐに帽子のニーチャンにどつかれていた。
そうだな、わかる。お前らのキャプテン、頑張れば人食えそうだよな。顔色悪いし目の下隈あって怖いよ。人をバラバラにするし犯罪者のにおいがするよ。
帽子のニーチャンが人肉をスープにして食ってても、あんま驚かねぇわ俺。頭からバリバリ食ってたらさすがにかなり引くけど。

「コイツはナマエだ。船に乗せる」

「え、キャプテンマジで」

「は?」

マジじゃねぇよちょっと待て。
なんか、俺抜きで話が進もうとしてないかね。俺のことだというのに張本人である俺抜きで話が進むのはおかしいだろ。
というか乗るわけない。こんな怖いニーチャンがキャプテンやってる船に乗るわけない。この船は魔窟だ絶対。
夕飯として食われなくとも、何か別の力によって俺が天に召されてしまう。そんな気がする。
くまは……可愛いけど……駄目だ……!

「いや、俺そろそろ帰るんで。アッタカホーム待ってるんで。ついでにカーチャンとトーチャンも待ってるんで」

じゃあの。
と、俺が少し手を振って歩き出そうとすると、少し焦った表情のベポ五郎くんからこんな言葉。

「え、でももうこの船出航してるよ?」

「……」

………は?
出航?

言葉を失いつつも駆け出して、近くの窓にびたんと張り付いて外を見ると魚が優雅に泳いでいた。

し、深海だこれー!
船のくせにもぐってんじゃねぇよ!なにこれこれが噂の潜水艦?すっげぇぇ!すっごいけど興奮してる場合じゃない。帰れない!アッタカホームに帰れない!

「カエシテ!家にカエシテ!」

「あー……なんというか、ドンマイ。これからよろしく」

黙れペングン。
というかドンマイってなんだよ。心が籠ってないわ!あとよろしくしたくないわ!
ああ、俺やっぱ死んだよカーチャントーチャン親孝行できなくてごめんね。

「うわぁぁぁ……そもそもこの船どこ行きなんだよ……どこ行きくらいはせめて教えてくれ。魚人島とかなら行ってみたいけどな」

「うーん、どこ行きっていうと……最後の島行き?ひとつなぎの大秘宝」

最後の島……ん?
わんぴーす?ひとつなぎの大秘宝?
それって、あれだろ、海賊が目指してるやつだろ。本で読んだことあるし、知ってる。ひとつなぎの大秘宝。

というかさ、そこ行きの船ってことはもしかしなくてもあれかな。

「お前ら海賊?」

「そうだな」

「実家に帰らせて頂きます」

俺がそう言うと、帽子のニーチャンから「却下」と無慈悲な回答が返ってきた。世の中クソだ。


 
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