愛は非売品です

「お前は、そんなやつじゃなかった」

酷く傷付いたような表情で、そいつは俺にこう言った。
それはまるで信じている何かに裏切られたような、何かに失望したような、そんな顔だった。


しかしそのとき俺はどうしてか、そいつの表情がとてもとても面白くてついつい冗談のように笑ってしまったのである。
くつくつと腹の底から沸き出てくる笑いに、思わず肩を震わせてしまった。

だって、そうだろう?
それはまるで、俺のことを全て知っているというような──俺が思っていることは全てわかるというような口振り。
笑わない方がおかしいというものだ。

そいつは一体、俺の何を知ってるというのだろうか。

傷付いたような表情にしろ、失望したような表情にしろ、滑稽に思えて仕方がなかった。
勝手に失望して、勝手に傷ついて、勝手に裏切られて、忙しいやつである。


「なにそれ、笑っちゃうくらい面白いなそれ」

俺がにやにや笑いながらそう言ったら、そいつは今度は眉を潜めて黙り混んだ。
なんだ、何か言い返してくると思ったのに。つまらない。

色々と期待はずれだったので、俺がわざとらしく大きくため息をつくと、そいつは何故か怯えたように肩を震わせた。
それくらいで怯えるなんて、小動物か何か?鋭い目付きをしているくせに、心は小心者なんて可愛いやつ。
まあだから何って話なんだけれど。

「俺は、最初からこんなやつだよ」

「……っ、違う!」

そんな俺の言葉に、そいつは真剣な表情でそう叫んだ。
何を根拠に言っているのか。

小心者のくせに変に頑固。それに、どうしてか俺に変に執着してるらしい。そんな執着される心当たりはないのだが。
でも、なんだか楽しくなってきた。だってこんな奴は滅多にいない。それに、もしかしたら。

俺はにやにやとした笑いが出そうなのを精一杯堪えて、そいつに対してにっこりと微笑むとこう言った。

「ねぇ、俺のことそんなに好きなの?」

「……っ」

するとそいつは、少し驚いたような顔をした後、照れているのか恥ずかしそうに目を反らした。どうやらビンゴらしい。
耳まで真っ赤。なんて可愛らしい反応。
本当笑える。
でもさ、

「俺は、お前のこと大嫌いだけどね」


××× ××× ×××

「……」

うたた寝していてどうやら、昔の夢を見ていたらしい。
そういえば、そんなことがあったような、無かったような。

「フッフッフ、どうした?ナマエ」

「……変な夢見ただけ」

かといって、昔のことなんてどうでもいいだろう。
別に気にする程のことでもないし、何かの役に立つ訳でもない。大切なのは今であって、昔ではない。
まあ、昔のことを省みるのは大切かもしれないけれど。

「へェ、どんな夢だ?」

「ドフィがメイド服着て、俺に“いらっしゃいませゴシュジンサマ”とか言うの」

俺が茶化してそう言うと、ドフィは微妙な顔をして「……悪趣味だな」と言った。
ああ、たしかに悪趣味だ。あいつも、俺も。ドフィもね。


 

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