悪趣味

※モブの子が理不尽になんか可哀想
※少し流血表現


「ねぇドフィ」

「あァ……?なんだナマエ」

「おれさ、あれがほしい」

そう言って俺が指さしたのは、うちの使用人の女性がつけている指輪だった。
女性の左手の薬指に光るそれは、変に派手で値のはるようなものではなく真ん中に小さな宝石が一つついているだけの簡単なもの。しかし、清楚な雰囲気の彼女によく似合っている。白く美しい手にも、よく映えていた。

そして時折、彼女はその指輪を見てとても嬉しそうに、幸せそうに頬を染めて笑うのだ。

本当に、素敵なことだ。


それを見ると、俺を後ろから抱き締めているドフィは楽しそうに笑い俺を見て言った。

「なんだ、あんなのがほしいのか」

「うん」

俺がそう言った瞬間。

何の前触れもなく、掃除をしていた彼女のその指輪が、薬指と共に消えた。
といっても、消えた、という表現は実際正しくない。この場合、故意に切り離されたというのが正しい表現方法だろう。

一方、彼女は一瞬、何が起こったのかわからずに呆然として、そして違和感に気が付いたのか自分の薬指を見ると、急に甲高い悲鳴を上げた。
彼女の小指からは、ぼとぼとと切り口から血が溢れてきて床に血溜まりを作っている。

ああ、本当に素敵だ。

それを見て、笑いが込み上げそうになるのをぐっと耐える。駄目だ、笑ってしまいそう。でも、本当に面白いのだから仕方がない。
泣き叫ぶ彼女は、より一層可哀想で可愛い。なんて楽しいのだろうか。

「ありがとうドフィ。大切にする」

「フッフッフ、満足か?」

「うん。とっても素敵だ」

そう言ってにっこりと笑う俺の手には、まだ血を流し続ける薬指と指輪が握られていた。これが愛の結晶ってやつ?面白すぎて笑ってしまう。こんなもので相手を縛り付けて、なんて楽しい。


自分の性格が悪いなんて承知の上。
だって、産まれたときからそうなのだから仕方がない。
いつしか、もう顔も覚えていない何処かの誰かは、俺のことを「お前はこんな奴じゃなかった」なんて言って酷く傷付いた顔をしていたけれど──そんなの、夢を見すぎなのではないだろうか?
だってそうだろう。自分の理想を俺に押し付けないでほしいものだ。面白すぎて笑ってしまうから。


満足げに笑う俺を見て、ドフィも楽しそうに笑うと俺の頭をゆっくり撫でた。

ゆったりとした午後の時間。
しかし、BGMは使用人の悲鳴なのだからとんでもない。

「お前は本当悪趣味だな」

「あはは……そうだね。でも、ドフィもかなり悪趣味だよ」

だってこんな俺を気に入ってる時点で、ねぇ。


 

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