ひとのものをとったらどろぼう!
「おはようエース!今日も可愛いやつめ!」
俺が笑顔でそう言うと、エースは苦笑いで「お、おう。おはようナマエ」とだけ言って速歩きで去っていった。 やだ、可愛い。後ろから抱きついてすーはーすーはーしたい。ペロペロしたい。むしろこんな変態の俺を見ても罵倒しない優しさが可愛い。
他の皆なんて俺を「変態!ショタコン!ホモ!」とかネタにしてくるし、というか俺はホモじゃねえバイだよ!! マルコなんて罵倒どころかゴミを見るような目で見てくる。世知辛い。なにこの変態には生きにくい世界。 そう思うと、やはりエースはこの殺伐とした船内での天使のような……女神のような存在!
「そんな存在を汚してしまうというのか……!」
いえす、いえす、いえす、いぐざくとりー!とかなんとかよくわからないことを呟いた、俺が今いるのはそんな天使のようなエースの部屋。 あー空気がうまいわ深呼吸しとこう。すーはーすーはー。心なしかいい匂いがするぜ。
エースの部屋に不法侵入なんかして、俺が何をしようとしているのかって?ふっふっふ、そんなの決まっているではないか!
今までマルコがいたために盗みをしてはこなかったが、今あいつは船を出ている。ということは今がチャンスなのだ。丁度エースも今さっき速歩きでどこかに行ってしまったので部屋にいない。こんなにタイミングがいいときはあるだろうか?これは神様が与えてくれた機会……逃すわけにはいきませぬ……!
「許せエースっ……!」
というわけで、へっへっへと気持ちの悪い笑みを浮かべながら遠慮なくタンスを開けたナマエくんだが、期待とは裏腹に服はあれども下着がない。あれ、下着は?パンツどこ?エースくんのパンツは? 別の場所にしまっているのかと思ってクローゼットなどの場所も開けたりしてみたが、下着が一切見当たらなかった。あれー?
もしかして、誰かに盗まれたのか!?そうだよな、あんなに可愛い可愛いエースくんの下着なんだから、皆ほしいに決まってる。ペロペロしたいし夕飯のおかずにもしゃもしゃ食べたいのはわかる。 しかし、だ。俺はエースが出ていってすぐに朝一番で部屋に入った。俺が入る前に盗むのはまず不可能。 ということは!考えられる可能性は一つ。
「ノーパン……だと……!?」
エースちゃん……やだ破廉恥……! 天使かと思ったらエースちゃんの予想外の淫乱さに嬉しいのか驚くのか興奮するのか反応に困る。天使かと思いきや淫魔だったとは。淫乱ビッチのエースちゃん……
「……いや、ありだな!むしろそれがいい!」
取り敢えず下着がないならとマクラカバーと靴下だけ握りしめて部屋を出た。よし、おかず確保。大量だぜぐえっへっへっへ。
「……なにしてんだよい」
部屋を出た瞬間、そんな酷く冷めた声が聞こえて思わず背筋が凍りついた。 目の前には、まるで汚物を見るような目で俺を見つめるマルコの姿が。丁度船に帰ってきたところらしかった。ああ、ああああああああ。
「マルコさん……はやかったですね……」
「……ああ、嫌な予感がしたから早々に切り上げてきたんだよい。それで、エースの部屋で何やってるんだ」
「……お、俺はナマエではない……通りすがりのナマエに似た別人だ。本物のナマエは今頃、自室でエースのことを考えてハアハアしている」
そんな俺の言葉を無視して、マルコは「その右手に、持っているものはなんだよい」と言って俺の手首を力強く掴んできた。いや、痛い。超絶に痛い。
「いたたたたたた!!うっ……うううう……靴下と、マクラカバー……」
「返してこい」
マルコのそんな無情な言葉に、俺は「はい……」と言って素直に元に戻すしかなかった。ああ、今晩のおかずが。 せめて靴下だけでも。靴下だけでもください。
「……俺の下着でもマクラカバーでもやるからそれで我慢しろよい」
いや、お前のはいらないけども。
その後、帰ってきたエースにノーパンなのかと聞いたら「なわけねぇだろ!ナマエの変態野郎!」と真っ赤な顔で怒鳴られた。 俺がそれに思わず「ありがとうございます!」と叫ぶと、横にいたマルコがおもむろに頭をひっぱたいてきた。マルコの拳はご褒美じゃないんですけど。
ちなみにエースの下着は洗濯中だったらしいよ。なーんだ。
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