バッドエンドは認めません
俺、海賊好きじゃないんだよね。
無情にも、元恋人という立ち位置にいるであろう男は自分にそう吐き捨てた後、淡々と船を出ていった。それも何の未練もなさそうなスッキリとした顔でである。ふざけんじゃねぇ。 それに引き換え、きっと自分は酷い顔をしているのだろう。告白して見事に玉砕した乙女のような、ただただ純粋に絶望したような表情。酷すぎる。
我ながら酷い別れ方だと思う。 「愛想が尽きた」のではなく「海賊が好きじゃない」 つまりは最初から愛なんてものは何処にもなかったのだ。
まさか自分がこんな思いをすることになるなんて、夢にも思っていなかった。 こんなのは、悪い男に騙されただとか、はぶらかされただとかいう馬鹿な女と同じ状態ではないか。いつだって自分は傷つける側だったはずが、今回傷つけられる側になるなんて。 ナマエの嬉しそうに笑った顔だとか、照れたように微笑む顔だとか、拗ねた顔だとか怒った顔だとかを、何故だかあんな酷い別れ方をした後で思い出してしまう。あれも全部嘘だったのか。
ナマエのことを信用しすぎていたのだ。 盲目すぎて周りなんて見えていなかった。それくらい惚れ込んでいたとでもいうことだろう。気が付かなかったのが尚更に酷い。ここまで来ると逆に自分の愚かさに笑いすら込み上げてきた。畜生。
ダサいんだよ、うじうじしてんじゃねえ。あんな男どこにだっているだろ。なにこっちだけ未練たらしくあんなやつのこと考えてんだよ。忘れろ! そう自分に言い聞かせ、なんとか考えないようにするがあまり効果がなかった。どうやら自分の考えている以上にナマエに拒絶されたのがこたえたらしい。女々しいったらない。自分をぶん殴りたくなった。
そうやって何も出来ず、何も言えずに呆然と部屋に立っていると、そこに偶然にも扉を開けてキラーが入ってきた。キラーは俺の表情を見て驚いたのか少し間を開けた後に「どうした?」と聞いてくる。どうやらそこまで酷い顔をしていたらしい。
「ナマエが、出ていった」
「ナマエが……?」
キラーは不思議そうにしながらも「喧嘩でもしたのか?」と聞いてきた。 違う。喧嘩なんてそんな生ぬるいものではない。
考えて惨めになりながらも「運命の人を見つけたとか言って出ていきやがった」と言った。
そして、そこで気がついた。
そうだ、「運命の人」だ。 ふざけたこと言いやがって、あいつ。
簡単に自分のことを“海賊好きじゃない”なんて言って拒絶して別れた後に、淡々とさも同然のようにそのアホ面でその「運命の人」に会いに行くのか。
そう思うと急に、さっきまでの打ちのめされた気持ちが、その言葉でだんだんとどうしようもない怒りに変わってきた。
こっちがこんな気持ちだというのに、ナマエはその「運命の人」と幸せになろうというのだ。ふざけんじゃねぇ。 そんなことが、許されると思っているのか。そんなことは全世界の人間が許しても、俺は絶対に許さない。こんな屈辱的で絶望的な気持ちにさせた責任をとるべきだ。
そう固く決意し、キラーに「出てくる」と言い残し部屋を出た。あの馬鹿には一度わからせる必要がある。
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