甘味は胸焼けがする
※安定のクズ。 ※エースMっぽい表現有り。
俺は小さく舌打ちをした。まったく、ついてないったらない。目の前のソバカス鳥頭をぶん殴りたくなった。
久しぶりに休みを貰い、何処か美味しい店のある街にでも観光にと羽を伸ばしたのがそもそもの間違いだったのである。いつもと違う行動はトラブルしか産まないのを俺はわかっていたはずだ。 それでも、神経質で短気で周囲の何もかもが気に入らないと感じる俺はストレスを溜めやすく、こうして外出や観光などしてストレス解消しないと体に悪い。実際、肌は荒れやすく不眠症という最悪の体調だった。
だからこそ、くそ上司や人間関係や書類に頭を悩ませなくていい休みの日に、ゆっくりと体調を整えることが大切なのだが、どうしてか俺はそんな休みの日にも仕事に追われていた。 それもこれも、全部このくそ野郎のせいである。その頭かち割ってやろうか。
「いてえって!いい加減離せよ!」
くそ野郎が何か言っているが、俺は「うるせぇ屑が」と吐き捨てて、構うことなくその髪の毛を掴み引きずっていく。時たまぶちぶちと音がするのは絶対に髪の毛が抜ける音だろう。 髪の毛にダメージがだとか、将来禿げるだとか、俺には関係ないことなので気にしない。 むしろ表を歩けないくらい禿げてしまえばいい。
「お前のせいで、せっかくの休みが台無しなんだよクズ鳥頭野郎」
そこら辺の人気のない路地裏につくと、俺はそう言ってそいつを適当にその辺に投げ捨てた。 するとそいつは尻餅をついて倒れ、髪の毛が数本引きちぎれた頭を押さえながら俺の方を見る。その目は反抗的で腹が立った。その髪の毛全部むしりとってやろうか。もしくは紐で縛って海に捨ててやりたい。
「ナマエ!急に何だよ!」
「何だよじゃねぇ。お前のせいで俺がこうやって駆り出されて来たんだ責任とれよ。責任とって死ねよ」
俺がそう言って、懐から取り出した拳銃の銃口を火拳のエースに向けると「ホント容赦ないなお前!」という回答と共に、持っていた銃が簡単に燃やされて溶けた。やはりこいつを前にしては金属類はゴミである。そもそも銃器機が効かない。悪魔の実は本当に厄介だ。
俺は舌打ちすると溶けた銃器を適当に投げ捨て、起き上がろうとする火拳の髪を掴み引き寄せて睨み付けた。
「お前、本当に面倒くさいことに俺を巻き込むな」
「かっ……!」
「か?」
「……顔が、ちか……」
取り敢えずがら空きの腹を蹴っておくと、顔を赤くした火拳は咳き込み涙目になって黙った。 今度妙なこと抜かしやがったら海に捨ててやろう。
火拳のエースと会うのはもうこれで何回目になるだろうか。俺が海賊の名前を記憶するほどなんてよっぽどである。もはやこいつとは知り合いレベルだ。海軍と海賊が知り合いってどういうことなんだ。
それもこれも、理由は知らないがどうしてかこいつが毎回毎回、俺がいる島の近辺で事件を起こすせいである。理由というか嫌がらせだろ。しね。
そして今回はこいつが店で喧嘩してるとかなんとかで、近くにいた俺が現場に駆り出され、市民に助けを求められた。 俺は有休とっただろうがふざけんな。上司くたばれ。
「店の客に暴力ふるって逃走。お前本当に何してんだよ」
俺がそう言うと、火拳は「そ、それはあいつらが……!」と言いかけて黙った。
なるほど、火拳ではなくあっちから喧嘩を売ってきたのか。 たしかにこいつは、自分からこんな街中で喧嘩を売るほど血の気が多くないと思う。一応正当防衛ではあるのか。まあ、俺には関係ない事だが。
「今度俺の近くで事件起こしてみろ。クソ上司に頼んでインペルダウンの最下層にぶちこむ」
「そんな重罪なのかよ!?」
「当たり前だろ」
俺の休息の時間を奪った罪は重い。
本当ならその苛立ちを、この尻餅ついてアホ面している鳥頭野郎にぶつけて殴るなり蹴るなりしてやるのだが、俺は今有休を取っているのである。さっさと帰って貰った方が利口だ。
そもそも、俺が本気でこいつを捕まえようとしても捕まるかどうかは正直微妙な所だ。こいつは能力者だが、俺の方は悪魔の実とかいう変な果実は食べていない。実質、海楼石が無いと捕まえることさえ難しいのだ。
つまり、どうしてこいつが能力を使って逃げずに俺に髪を引っ張られたり蹴られたりしているのか理解できない。絶対に逃げようと思えば逃げられるはずなのである。 まあ、理由なんてものはどうだっていいことだが。
「お、おいちょっとまてよナマエ!」
何故か立ち去ろうとすると、火拳に手首を捕まれて止められた。
どうしてお前に危害しか加えない海軍をそこで引き留める必要があるのだろうか。意味がわからない。 そんなことを思いながら、めんどくさそうに舌打ちして「なんだよ」と振り替えると、そこには照れくさそうにというか、恥ずかしそうな火拳の顔。 あ?
「じゃあ会いに行くのは、いいのかよ」
「……誰に」
「だ、だから……お前に」
これはもうぶん殴るしかない。
そう思った瞬間には、俺の拳はソバカス野郎の腹に叩き込まれていた。 会いに行く?俺に?何言ってるんだコイツ馬鹿なのか。 不意討ちのパンチに咳き込む火拳を無視して、とりあえず一回腹を蹴っておいた。 地面に転がる火拳は無様である。そのまま一生這いつくばっておけばいい。
俺は地面で呻く火拳を無視して、さっさとその場を離れた。なんだか名前を呼ばれた気がしたが、それも無視だ。
ああ、昼飯は何にしようか。どこかの美味しいレストランでスープでも飲みたい。
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