愛なんてくだらない
確かに愛している。 けれど、相手がそうとは限らない。
たしかに自分とナマエの仲は特によかったし、恋人同士もある。 しかしそれでも、本当は自分しか愛していないのではないかとなんとなく不安に思うことが多々あった。
ナマエに愛してると言われても、キスしても何故かその不安は消えない。 それは、ナマエがかなり優しい人間だった為に尚更だ。なんせ強引に住んでいた島から連れ出して、自分の船に乗せたとしても怒らないのだから相当である。 実際、自分はナマエが怒った所を見たことがなかった。
だからこそ、好きだという自分に、ナマエが無理に合わせているのではないかと思ってしまうのは必然だった。 無理に付き合って、無理に愛してると言って、無理にキスに答えているのではないか。そう思えて仕方がなかった。
──なので、少し反応を見てみようと思ったのである。
自分が他の女といたら、ナマエはどんな反応をするのか。 怒るだろうか。泣くだろうか。嫉妬してくれるのだろうか。 それとも、何とも思わない?
自分が、ナマエが知らない女と歩いていたら嫉妬するのに、ナマエが何とも思わないのは不公平だろう。
もし、こんなことをしてもナマエが自分を許し、叱らなかったり何も言わず見て見ぬふりをすれば、自分から別れを告げようとさえ思っていた。
それほどまでにナマエの言葉を疑っていたのである。
そして、ナマエが自分の連れていた女をナイフで刺し殺した所で、自分は愛されていたんだということに気がついた。
「……ナマエ」
何もすることが出来ずにそう呟くと、女の血を浴びたナマエはにっこりと笑う。今まで、見たことのない表情だった。その俺を移す瞳は、いろいろな感情が渦巻いている。
「ロー、誰よりも好きで、誰よりも愛してた。でも、お前はそうじゃなかったんだな」
違う。そうじゃない。 誤解だと言っても、これは自分が招いた結果である。ナマエはちゃんと愛していた。嘘も偽りもなく、自分が見ていたナマエが本当のナマエだったのである。それを信じなかったのは、間違いなく自分だった。悪かったのは自分だ。
淡々とナイフを向けてくるナマエを見て、どうしようもないくらいに悲しくなった。
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「ナマエ」
目が覚めると、俺はベッドにいた。目の前にはローがいる。どうしてかとても頭がいたい。
「ナマエ、悪かった」
ローが俺に謝ってくる。どうして?
そう、たしか俺は女を刺し殺して、そしてローも殺そうとした。 しかし、ローにナイフを向けて、刺そうとした後から記憶がない。でも、ローが生きているということは失敗したのだろう。 ああ、頭がいたい。
「ナマエ、俺はお前のことを誤解していた。許してくれ。俺は──」
綺麗事のようなことを言って謝ってくるローにイライラした。 どうしてかその姿が、昔自分を裏切った奴等と同じに見えて尚更に苛立ってくる。
「貴方は、誰ですか?」
なんとなく、口を衝いて出た言葉だった。
しかし、その言葉を聞いたローが酷く傷付いた顔をしたのが面白くて俺は何食わぬ顔で「ここは何処ですか?」と続けた。
するとローは無言になり「……冗談だろ?」と打ちひしがれた様子で聞いてきたのがまた楽しくて、嘘だと言わずに黙っていた。なんだろう、ローが辛そうな表情をしているのがとても嬉しい。楽しくて楽しくて仕方がない。
「……ナマエ」
「ナマエ……それが俺の名前ですか?」
「ナマエ、」
「どうして俺に謝るんです?」
ローは、泣きそうな顔でただ俺に謝ってくる。 どうしてかその姿が癪に障って、イライラした。
こいつは謝って許されると思ってるのだろうか。裏切られた人の気持ちがわかるのか?俺がどんな気持ちなのかわかるのか? 謝って許されるなら海軍もインペルダウンもいらないのである。
「ナマエ、許してくれ……俺は、お前が──」
「許すわけねぇだろ。ばぁか」
俺はそう言って、裏ポケットに隠し持っていたナイフ取り出した。 そして、ローの心臓めがけて振り上げる。
一度目が駄目ならtake2である。 戸惑いも躊躇いも、動揺ももちろんない。
そして俺はやはりあのときと同じ、穏やかな気持ちでナイフを降り下ろした。
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