復讐に浸る愛

殺してやる、殺してやると、青年は死んだような目で呟き続けた。


信じていたのに。信じると誓ったのに。信じさせてくれると思ったのに。

そんなやつに裏切られた。それは酷い裏切りだった。少なくとも、青年の心にとんでもなく大きな傷を付けるくらいには、まったくもって残酷で冷たい裏切りだった。
ありえない。ありえない。あんなの、信じられない。どうしてこんな。嘘だ、嘘だ、嘘だ、あああああああああ


「それが、お前の答えなんだな」


それは、心がぐちゃぐちゃになって原形を留めていないにしては、不自然なほどに落ち着いた声だった。

いや、不自然というわけでもない。
青年、ナマエの心は今これ以上無い程に穏やかで落ち着いている。

どうしてだろうか。
こんなにも憎しみと殺意の感情が溢れているなら、心も荒んで殺伐としていくのだが、まるで母親のお腹の中にいるときのように落ち着くのである。

そうか、決意ができたからか。



「殺してしまおう」



そいつとの出会い頭はなんてことない、ただの店で知り合っただけだった。そうしたら、そいつは強引にも付いてこいなんて一方的に言ってきて、半ば無理やり船に乗せられた。最初は複雑だったし不安だったが、馴染んでくるといいやつも多かったし、そこは居心地がよくてとても楽しかった。前いたところよりも、ずっとよかった。
そうして過ごしている内に、いつの間にかあいつと俺はお互い好きあっていて恋人になっていた。
愛してると愛を確かめあって、キスをした。あいつは俺に愛してると言った。
そして、俺も確かにあいつを愛していた。


そうだ、愛していたのだ。

あいつが知らない女とべたべた引っ付いて、俺に言った言葉をそっくりそのまま女に囁いているのを聞くまでは。
酷い裏切りだと思った。驚きと絶望で涙も出なかった。

しかし、それだけではない。
そのときあいつ、驚いて見ている俺と目があったのである。俺が見ていることに気がついたんだ。

そうして、あいつはどうしたと思う?
驚いた?焦った?混乱した?残念ながら全部違う。
そのとき、俺が見ているのに気がついたにも関わらず、あいつは何事もなかったかのように視線をそらしたんだ!それはもう“ああ、いたのか”くらいの反応だった。あり得ないよな。このくずやろう。

あんなにもお前の言葉を信じていたのに。お前のことを愛していたのに。
信じていたのは俺だけだったんだな。愛していたのは俺だけだったんだな。
ちくしょう。あんな言葉に騙された俺が悪いのかよ。嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。

絶対に殺す。
俺の心を踏みにじった罪は重いのだ。内臓引きずり出してやる。目玉くりぬいてやる。足先から骨を少しずつ削っていってやる。苦しんでしね。苦しみながらしね。

仮にも俺はあいつを愛していたというのに、もう愛なんてどこにもなかった。裏切られたことに対しての憎しみしかなかった。
こんなにも俺が裏切り者に厳しいのは、どうしてだっただろうか。いつから?優しいと思っていた母親に毒を盛られ殺されそうになったとき?愛していた父親に奴隷として売られそうになったとき?信頼していた親友から辱しめを受けたとき?味方だと思っていた友人にナイフで刺されて金を奪われたとき?それとも、それとも、それとも──

「あはは、」

乾いた笑いが漏れた。
そうだ、そんなことはどうでもいいではないか。終わったことはもうどうしようもない。今俺の思うように行動すればいいのだから、それはとても簡単なことだった。

そうして、俺は血色の無い真っ白な手で、しっかりとナイフを握る。


 

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