星屑が海に堕ちるとき
※主人公が頭おかしい。よくわからない。
「ペンギンの目ってさ、おいしそうだよなぁ」
星が綺麗に輝く夜。 甲板で海に釣糸を垂らしながら、ナマエという青年は俺を見てげらげらと楽しそうに笑った。
「はぁ?」
唐突にそんな話を切り出されて、取り敢えず俺が返した言葉はそれだけだ。 というかむしろ引かなかっただけ誉めてほしい。まあ俺の場合は慣れてるからこいつに対してこんな反応ができるのだろうが。
俺とこいつ、ナマエは幼馴染みで幼い頃から一緒にいたが、そういえば思い返すとこいつが正常だったときの記憶なんてない。最初からこんな感じだった。 たしか初めて会ったときも、こいつはいつも女の子の人形の足をもいだり、くまのぬいぐるみの綿を出して遊んでいた。いや、子供なんだから玩具を壊すくらいするかもしれないが、こいつの場合においては四六時中なにか壊していた覚えがある。
「だから目くれねぇ?」
「は?やらねぇよ!」
「うわ冷たーい。俺泣いちゃうかも」
うわーん、ペンギンが俺に冷たくするーなんてわめいて顔に両手を当て泣き真似をしたが、すぐに限界が来たのかわめき声から笑い声に変わる。 きっとこいつは、産まれてくるときにでも母親のお腹の中に頭のネジを忘れてきたのだろう。きっとそうに違いない。
「ひひっ……あはははは!そういえばさ、釣れないんだよねぇ。おかしいよねぇ」
おかしいなぁ、おかしいなぁ、そう笑いながら釣りをするナマエの言葉とは裏腹に、横に置いてあるバケツの中には今も溢れかえるくらい魚が大量に入っていた。魚が動いて今にもバケツが倒れそうだ。
それに、今も海に釣糸を垂らしている釣り竿はしなっていて、どうやら引いているらしい。さっさと巻けよ。
「なに言ってんだ、魚釣れてるだろ。今も引いてるぞ」
「魚?違う違う。俺が釣りたいのはお星さまだって」
「……はぁ?星ぃ?」
俺がそう言うと、ナマエはさも当たり前のように 「そうそう。星を釣ったらなぁ、捕まえて願い事をたくさん叶えてもらうんだぜ」と少し自慢気に言った。
メルヘンチックというか、なんというか。 俺が呆れていると、ナマエはようやく引いている釣竿を巻きはじめた。
「あー、また魚だった」
ナマエは残念そうにそう呟いたが、つり上げた魚はなかなか大物だ。どうやら明日の朝食は魚料理だらけになるだろう。
「お星さま釣れないなー。やっぱり餌は小魚じゃだめか。人肉がいいのかな。なあ、お星さまって何食べるんだ?やっぱ肉?人肉?」
「人肉は食わねぇだろ。小魚でいいんじゃねぇの」
「うーん。そっかな。じゃあもう少し粘ってみるかー」
ナマエは新しい小魚を針につけて、また釣糸を海に垂らした。 海の水面にはキラキラと空の星と月が輝いている。だが、それは光が反射しているだけで実際は釣れるはずがないのだ。しかしナマエはそれがわかっていないのか、お星さまが釣れると信じて今日もまた釣糸を垂らしている。
「……お前、星なんか釣って何願うんだよ。巨万の富?名声とかか?」
「あははは!ううん。違う違う。そんなのは頑張ればどうにかなるものだろ?」
ナマエにしてはまともというか、らしくないことを言たものだから少し驚きながらも「じゃあなんだよ」と聞くと、ナマエはげらげらと笑いながら嬉しそうに答えた。
「ペンギンと、ずっと一緒にいられるようにってさ」
「……なんだそれ」
そんなこと、願わなくたって、俺はずっと。
そう考えて、止める。 ナマエは、何もわかっていない。かといって、理解しようともしないやつだ。
ずっと一緒に、そんなの当たり前だ。絶対離れてなんてやるはずがない。 お前がどんなやつでも、お前がどんなに嫌がっても、今まで俺はずっと側にいたじゃないか。周りがお前をどんなに嫌っても、迫害しても、憎んでも蔑んでも。今さら離れる気なんて更々ないというのに。
しかしそんなことこいつには、何を言ったって伝わらない。何をしたって伝わらない。絶対に他人を信じない。 そんなことは、幼馴染みの自分がよく知っていたことだと自覚していた。ナマエの考えは絶対に変わりはしないのだ。
「俺も釣りするか」
「あ、そう?じゃあどっちが先にお星さま釣るか競争な!あははははっ」
「絶対俺が勝つな」
「あはははは、いやいや俺に決まってるじゃん」
俺はナマエの隣に並んで座り、星が輝く海に釣糸を垂らした。
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