愛を食べて生きるひと
「マルコ隊長!こっ、これ!よければ貰ってくれ!」
そう緊張した面持ちの青年から差し出された小さな可愛らしいラッピングの箱に、今日もかとマルコは頭を抱えそうになった。
前は花束、その前はネックレス、そのまた前はイヤリングだっただろうか。 青年がいつもいつも己に差し出すものはどれも高価であろうものばかりで、きっと女性が貰ったら喜ぶ物だ。しかし、それは女性であった場合であってマルコはれっきとした男性である。 嬉しいか嬉しくないかと言われれば、まあ好意を向けられているということにおいて別に嬉しくないということもないのだが、自分は男だというのに若い女に送るような物を貰うとなんとなく微妙な気持ちになる。
「……こういうのは好きな女にあげろよい」
マルコはいつものようにそう素っ気なく言って、差し出された小さな箱を突き返した。 すると目の前の青年は、これまたいつものようにあからさまにがっかりした面持ちで肩を落とし「は、はい……」と呟いて、重い足取りで自分の部屋に帰っていく。 まるで変わらない。いつも通りの会話といつも通りの反応だった。
青年、ナマエが、マルコに好意を寄せているというのは船内でも有名な話である。 というのも、ナマエがマルコを見ては赤面したり、プレゼントを渡していたりするのを頻繁に何人もの船員が目撃しているのだ。まず有名にならない方がおかしい。
そんなこんなで、船員の皆がみんな事情はなんとなく知っていた。 だからこそ、一目見ただけでわかるほどに落ち込んだ様子で部屋に入ってきたナマエを見て“ああ、今日も駄目だったのか”と何があったのか一瞬のうちに皆理解できてしまった。 こうやって肩を落として帰ってきたナマエを目撃したのも一度や二度だけではない。
「何だナマエ、今日も駄目だったのか?」
取り敢えず可愛い弟分なので、少し慰めてやろうとサッチがナマエの肩を軽く叩いてそう言う。回りにいた船員も「あんま気にすんな」だとか「次だ次がある」だとか慰めてやる。白ひげ海賊団はなんだかんだで弟に優しい。
するとナマエは、肩をぷるぷる震わせながら泣きそうな顔で「サッチ隊長……好きな人を振り向かせるにはどうすればいいんだ……?」と小さく呟いた。
好きな人、それはおそらくというより絶対マルコであろう。
「は!?そ……それはな……」
はっきり言ってそんなもの知らない。というか知るはずがない。 いくらサッチでも、女の落とし方は知っていても男の落とし方なんて知っているわけがないのだ。というよりも、同じ船の仲間のマルコの落とし方とか知りたくない。飛んでいる所を物理的に落とすことなら出来るだろうが、ナマエは真剣に聞いてきているのだ。そこでボケてどうする。
そもそも、逆にサッチがナマエに何でマルコなんだと聞きたいくらいだ。 ナマエは、顔もそこそこ整っている部類だし、若いしなかなか強いし、海賊にしては学も礼儀もある方だ。女には困らないだろう。 今ナマエがマルコにしているアプローチを、そこらへんの女性にしてしまえばきっと簡単に落ちるというのに、どうしてよりによってマルコなのか。ハードルがあまりにも高すぎる。
「……そ、そういうのはアピールあるのみだナマエ!いつかは想いが届くかもしれないだろ!?な、お前ら!」
適当に思い付いたことを言ってのけ、周りにいた奴等に丸投げすると、周りの奴等は“こっちに振るなよ!”という顔をしつつ「あ、ああそうだ!」「元気出せよ!」と少し焦りながら言っていた。少し動揺しているのは気にしないことにしておく。
するとナマエは「そうだな……頑張るわ。サンキュー隊長!」と、少しさっきよりも自信をつけ元気になった様子で去っていった。 でも実際、できることといえばそんなものだろう。アピールあるのみ。 嘘は言ってない。嘘は。
それでも「マルコのことはいい加減諦めろ」と、回りの船員が言わないのは、見事に毎日玉砕するナマエを笑っているわけでも、ナマエに迫られて困るマルコを面白がっているわけでもなく、単純にナマエの恋を応援しているだけだ。
それに、こうやってアプローチしていれば案外いけるんじゃないかとさえ思う。マルコがナマエを本気で拒絶していない辺りを見ると。
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