泡にならない人魚姫
※主人公がゲス
ナマエという男は、小さい頃から他人と仲良くなるのだけは誰よりも上手かった。
万人受けする笑顔をいつも絶やさないため、第一印象はいいし、話すときにも他人が望む言葉が簡単に頭に浮かぶ。誰にでも好かれ、慕われ、一目おかれる存在だった。
もちろんそんなナマエを周囲は大切にしたし、親も皆に褒められいい子だと絶賛されるナマエを誇りに思っていた。 だからこそ、この子は将来とても素敵な人になると信じて疑わなかった。
しかし、まさかその才能が奴隷商人としての能力に利用されるとは、周囲の人間も両親も思っても見なかっただろう。
にこにこ、にこにこと昔と変わらず万人受けするような素敵な笑顔を浮かべる男は、闇のブローカーと呼ばれるドフラミンゴも認める最悪の奴隷商人だった。
「それで、あっちから近づいてきたくせに、いざヒューマンショップに引き取ってもらいに行ったら“ひどい!私のこと騙してたのね!”なんて言うもんだからおかしくってつい笑ってしまいましたよ」
「ヘェ……それでそいつは何ベリーで売れたんだ?」
「人魚族でしたからね。2億ベリーで売れましたよ」
なかなかの値段でしょう、と言ってにっこりと笑う男の顔はどう見たって優男だった。虫すら殺せないような優しい笑顔を浮かべている。 しかし、この男が自分を好きだと言ってきた人魚族の女を今さっき2億ベリーという値段で売り払ってきたというのだから、世の中わからないものだ。
「王子様、なんて……柄じゃないですし」
そう言うとナマエはなにか思い出すような表情をして黙った。 きっと人魚族の女に、そんなようなことを言われたのだろう。その人魚族も惚れたのがこの男でなければ、もしかしたら報われていたかもしれないのに。
勇気を出して陸に上がってみれば奴隷人生一直線なんて、悲劇のヒロインもいいところだ。泡にさえなれない。
「フッフッフ、お前は王子様というより悪い魔女だな」
ドフラミンゴがそう言って笑うと、ナマエは「人魚姫が悪い魔女に惚れるなんて、本末転倒ですよ」と微笑んだ。
「それより、彼女のおかげで結構な額の収入が入ったんです。若様、よろしければ──」
それに、ナマエにとってのお姫様は二人もいらないのである。
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