友情とか親愛とか
「……」
俺はとんでもなく重要な事態に気がついた。 あれ、今日ってあのローの誕生日じゃね?
ドフィと誕生日が結構近いから覚えてたのだが、やっべローの誕生日じゃん、当たり前のようにプレゼントもケーキもなんも用意してねぇ。するわけないけど。
ドフィとか皆にはちょくちょく少なくとも何かあげたりしたのに、ローだけは何もナシってなんか可哀想というかかなり酷いが、かといってあいつに何あげれば喜ぶんだよ。新品の帽子とかミニカー?絵本? それとも首輪とか鎖とか蝋燭とか、手錠とか鞭とかアイアンメイデンとかか。いや、全部俺のお気に入りコレクションだからやらんぞ。というか、これ全部俺の好みじゃねえか。
そうやって誕生日というわけで俺が適当にいろいろ考えていた訳だが。 ……あれ、でも少し待て。考えるんだ。 冷静になってよく考えると、俺がきれいに飾り付けされた部屋で大きいケーキの前でプレゼント持って「ローくん誕生日おめでとう!これからもよろしくね!」なんて誕生日特有の三角帽子かぶった姿で言って、盛大にクラッカー鳴らしたりしたら。 ──ロー、泡吹いてぶっ倒れるんじゃないか。
ついでに、近くにベビー5とかバッファローとかいたとしてみろ。泣きながらドフィに報告しにいくんじゃね?「ナマエの頭がおかしくなった!助けて!」とか言ってな。 やだ、怖い。ドフィに真剣な表情で精神科勧められるとか考えたくもないんだが。
まあローの誕生日祝う俺とか、それくらい正直かなり気持ちが悪い。自分でイメージトレーニングしてて実感した。 というかどう頑張っても、ドフィにかなり真剣な表情で精神科を勧められる未来しか見えない。俺の未来は暗い。
うっわどうしよう。
まあそれで、考えて考えた挙げ句に思ったんだがもうさ、誕生日プレゼントはもはや愛のムチでよくね? 毎日あげてるけどね、ほらでも毎日貰ってるものでも誕生日に貰うとまた違うっていうからな。気持ちが大事なんだよ気持ちが。
ローくん殴られるの好きだよな?愛のムチ好きだよな?好きだろ?好きなんだろ?好きなんだよな?好きだって言えよゴルァ!殴らせろ! ヘイ!ロー、ボクシングしようぜ!お前ザンドバッグな! そんなのローへのプレゼントじゃなくて俺へのプレゼントじゃねとか思うかもしれないが、そんなの気のせいに決まっているじゃないか。
「ロー、今日は何の日か自覚してるな」
俺がそう楽しみを隠しきれないと思われる表情でそう言うと、目の前のローが「……ぇ、」と言って固まった。 その表情は無表情に見えるが、少し期待したような嬉しそうな感じなのがなんとなく伺える顔。とりあえず理解できるのは、純粋に俺がそんなことを言ったのに驚いて素直に喜んでいる顔だった。
「……っ」
あ、いやこれは、そのだな。 やばい、凄く生意気な表情で「知るわけねぇだろ」とか言われるもんだと思ってたから、この表情は予想外すぎた。 うわどうしよう、絶対「知らねぇよくそが」とか言われると思ったのに。 そんな純粋な目で見つめられたら、殴れないだろうが。「誕生日おめでとう」って思いつつ、思いっきり殴ろうと思ったのに、殴れないじゃないか。微粒子レベルで残っている俺の良心が痛むだろうがそんな真似はよせ。
「……ナマエ……?」
少し期待したような目で俺を見つてくるローに、もはや何をしたらいいのかわからなくなった。 ケーキ?プレゼント?クラッカー?三角帽子?全て用意してませんが、何か問題でも。 問題大有りだ。
拳で払うつもりだったから、持ち合わせなんて何もない。お菓子なんて普段持ち歩いてないからポケットにキャンディーひとつすらない。 これは、酷い。
「……」
無言で俺を見つめてくるローを数秒見下ろした後、とりあえず目線を合わせるように少しかがんだ。ローはそんな俺をただ目を丸くして不思議そうに見つめてくる。 どうしよう、このまま「プレゼントは愛のムチだよ!おめでとうローくん!」みたいなこと言ってローを殴り付けるか? いや、無理だ。この状況でそんなことを言うのはさすがの俺も息が詰まりそうになる。絶対に無理だ。
というかなんなんだよ、誰だよ。プレゼントは愛のムチとか言い出したやつ。馬鹿じゃないのか。馬鹿だろ。本当馬鹿だな。誰だよ言い出しっぺは。名乗り出てこいよこの馬鹿が。 あ、俺だ。
とりあえず俺はローの帽子を少し上にずらす。 そして、ローのおでこに軽くキスして言った。
「誕生日おめでとうロー」
その後、かなり驚いた表情をしたローに、照れくさいので思いっきり帽子を頭にぐりぐり押し付けてやる。 くそ、俺なにやってんだよ。くっそお前のせいだぞ。訳がわからない。
照れて少し赤い俺の顔はまあ、見られていないはず。なんだよこれ俺本当になにしてんだ。マジで少し顔が熱いぞ。
「……ナマエ、顔が、あか──」
そう言いかけたローの頬を、おもいっきり殴った。
言わなくていいんだよ、言わなくともわかってんだよ。慣れないことして照れちゃったんだよ。言わせんな恥ずかしい!お前のせいで相当恥ずかしいわ。というかそういうお前だって赤いじゃねぇかこの野郎。ああちくしょう恥ずかしい。
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