嫉妬くらいする


「ドフィ、好きだ」

「フッフッフ、そうか」

目の前のドフィが、ソファーに座ったままそう言った。
サングラスの奥の瞳は、俺を見ているのかどうかはわからない。ただ、今さっきのその言葉は間違いなく俺に言った言葉である。

ああもう、ドフィ好きすぎる。
俺が、好きだ好きだ言っても全然気にした様子もない態度とか、今浮かべてるドフィの悪どい笑みとかむしろ逆に可愛い。変に子供っぽくて生意気な感じなのがむしろ可愛い。偉そうにソファー座ってるのとか凄く可愛い。あ、偉そうじゃなくて実際に偉いな。

それにしてもドフィって、殴ったらどんな表情するんだろうか。
一回でもいいから殴ってみたい。殴りたい。涙目になってほしい。涙目になって弱ったドフィって凄く可愛いんだろうな。
……でも、殴るだけだとドフィ涙目になるわけないか。どうしよう、亀甲縛りにして鎖で繋いで爪を一枚づつ剥いだら涙目になるのだろうか。なにそれ、可哀想だけどすごく可愛い。

まあそんなことをしたら、俺が亀甲縛りにされて海のもくずにされると思うので、やらんけどな。まだ死にたくはない。やってみたいけど。

「……、」

そんなことを思って目の前のドフィを崇拝していたら、急に後ろから俺の服の裾が少し引っ張られた。

一瞬気のせいかと思ったが、規則性を持ってグッグッと引っ張られているので背後にいるであろう人間の仕業だろう。

ちくしょう。気のせいでよかったのに、必要以上に裾引っ張ってくんなよ。
誰だこのやろう、誰なんだドフィとの会話を邪魔するのは。今すごく幸せなんだよ邪魔してんじゃねえよ。
そう考えて苛々しながら俺がバッ、と勢いよく振り向くと、なぜかそこには不貞腐れた表情で俺の服の裾を掴むローの姿が。

いや、お前かよ。なんだよ。

「……」

にくたらしい、ぶっさいくな面である。
目の下の隈もあやかって、とにかく目付きが悪い。いや、どこの不良だ。ほんとに酷い顔だな。
というか、俺の裾引っ張ってたってことは何か言いたいことがあったんだろうが。言えよ。なぜ黙ってるんだお前。

「……おい、ロー」

そう言ってもなんの反応も見せず、俺の方を見もしないで、そんな酷い表情のまま俺の服を離そうとしない。

えええ、取り敢えず俺の服から手を離せ。なんでしっかり握ったまま動こうとしないんだ。おかしいだろ。
なんだろう、こいつ、ぶん殴りたい。


「ローの奴はどうした」

目の前のドフィが俺の服を握って離さないローを見てそう聞いてきたが、俺には「わからない」と答えることしか出来なかった。というか本当になんなんだ。
手を振り払おうにも、力強く握られすぎていてどうしようもないのである。ちくしょう、ドフィの前なのにどうしてこうなった。
ロー、お前はいったい何がしたいんだ。もしかして日頃の仕返し?仕返しにドフィと話してるのを邪魔してるの?なにそれ殴る。

「ロー、用がないなら向こうに行っていろ」

「………嫌だ」

いや、なんでだよ。

用事がないならもういいだろ。なんか理由があるわけでもないんだろうが。それとなんで視線を合わせようとしないんだ。おかしいだろ。
というか、無言で服引っ張ってんじゃねぇ、シワがつく!

なんかローが、俺とドフィを引き離そうとしているのかそれとも会話に入りたいのかわからないが、恐らく前者だろう。
まさかローが俺への日頃の恨みをこんなところで晴らしてくるとは思ってなかった。まさかの邪魔者とか。

「……ナマエ、」

ローが小さく俺の名前を呼んだ。
ああ、はいはい、わかったよ。ちくしょう。

俺は目の前のドフィに「ちょっと、すまない」と一言断りを入れてから、歩いてその場を離れた。
仕方がない。仕方がないんだ。ローは言っても聞かないし、だからといってこのままローを背後霊のように無言で立たせたままドフィと話すわけにもいかない。

ローは歩いていく俺の後を、そのまま無言でついてきている。ただ、ドフィから離れた位置に来るとゆっくりと俺の服から手を離した。


「ロー、それでどうしたんだ」

ドフィからは見えも聞こえもしない位置で、俺が振り向いて聞いた。
オラァ、ここならドフィいないんだから言えるだろうがよォ。言えよコルァ。早くしろ。

「……」

「……ここなら誰もいないだろう。早く言え」

わざわざドフィと離れてやったんだぞ、普通じゃ考えられないだろ、お前のためだぞ!
あ、でもドフィに不利益な情報だったら、問答無用でチクります。慈悲はない。あとすごいどうでもいいことだったら殴ります。慈悲はない。

あれ、でもさ、ドフィの前で言えないことって、そういえば何。そんな言えないようなことあるのか。ドフィが聞いたら怒るようなこと?
なんだろう。サングラスがださいとか?そのふわふわの上着なんなのとか?
言ったら殴る。殴るぞ。お前は世界の秘密に気がついてしまった。
あと、ださくないだろあれオシャレだろ!

俺が無言で待っていると、ローが唇を噛み締めた後、言いにくそうに恐る恐る口を開いた。

「……あんまり、あいつと……、」

わりと本気で何言ってるのか聞こえない。
俺が「なんだ」と聞き返すと、ローはぐっと押し黙ってからうつむいたまま恥ずかしそうに言った。

「……っ、……俺のことは、好きなのか」

「嫌いだ」

あ、なんか反射的に言ってしまった。なんか、つい。
言いにくいのを我慢して恥ずかしそうにせっかく言ったの悪いけどさ、いつもの癖で。

でも、ドフィとせっかく話してるのに邪魔しておいてこの質問は酷い。予想以上に酷い。というかさ、今言わなくていいだろ、後で言えよ。わざわざ俺の袖引っ張ってまで今言いたかったのかよ。

「……」

そんなことを思いつつ、なんとなくローの顔を見たら泣きそうになっていた。

いや、なんでお前が泣きそうなんだ。ドフィとの会話中断させられて泣きそうなのこっちだからな!
でもその表情可愛いじゃないか、ちくしょう。殴りたいくらい可愛い。

ちくしょう、まあそうだな、そのローのショックを受けた表情見れただけでまあチャラにしてやろう、しかたながない。
嫌いと言ったな、あれは嘘だ。ローのその表情が凄く好きだ。可愛い。さらに殴って泣かせたいくらいには可愛い。

「……冗談だ」

俺がそう言うと、うつむいていたローが驚いた表情をして俺を見た。少し安心したような、ホッとしたような顔だった。 なんだこいつ。

 

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