inシャボンディ2


あの帽子に、目の下の隈、癖の付いた黒髪。間違いはない。
いないと思っていたけれど、その人は間違いなかった。間違えようがなかった。

「トラファルガー・ロー……!」

私が驚いてそう呟くと、その人は少し驚いたような表情をして「……あ?」と小さく呟いた。
彼の黒い瞳が、少し目が少し見開かれて私の姿を映す。それがどうしてもついつい嬉しくなって、私は思わず叫んだ。

「やっぱり……貴方、トラファルガー・ローよね!」

「……たしかに俺はトラファルガー・ローで合ってる。だが、なぜ見ず知らずのお前が俺の名前を知ってるんだ?」

私のその言葉に、トラファルガー・ローは疑うような目で私を見てそう言った。

たしかに、全然知らない人間が自分の名前を知っていたら驚くだろう。
どうやらこのローは超新星ではないようだし、あまり有名でもないのだろう。そんな自分を見ず知らずの他人が知っていたら、それは驚くに決まっている。

しかし、よかった、いない訳じゃないのだ。
私のせいでいなくなってしまったのかと不安になったけれど、トラファルガー・ローがきちんと存在していて安心した。

「えっ!?じゃあ貴方が“死の外科医”ですか?」

「“死の外科医”って何だよ。誰が言った。何だその外科医のくせに人殺しそうな異名は」

ブルックに対して、ローが言う。

どうやら、死の外科医の異名も無いらしい。
これはもしかすると、オペオペの実も食べてないのだろうか?いや、もしかしたら海賊ですらないのかもしれない。可能性は拭いきれない。
私のせいで、過去が違ってしまったのだろうか。それにしたって、オペオペの実を食べていないのはまずい。


「……ねぇ、トラファルガー・ロー。人を探してるの。緑の髪をした女の子なんだけど、よかったら一緒に探してくれない?」

私はすがるような思いで、そう言ってローの手を取った。

彼から色々聞き出さなければならない。オペオペの実は食べているのか、海賊なのか、何をしているのか。
彼がいなくなっては大変なことになる。

しかし、彼は 「あ?」と不機嫌な表情で呟いた後、私の手を払いのけた。

「断る。俺はこれから行かなきゃならねぇ所があるんだよ」

冷たく突き放すようにそう言って、ローは何事も無かったかのように歩き出してしまった。
私はただ、呆然とその後ろ姿を眺めるしかない。

「なんだ?あいつ」

「なんか……愛想の悪い方でしたね」

ルフィとブルックが、歩き去っていくローを見てそんな言葉を呟いた。

もしかしたらこれを期に、ローがうちの海賊団に入ってくれるかもしれないと思ったが、やはり世の中甘くはないらしい。
しかし、そうでないとルフィがもしかしたら助からないかもしれないのだ。
ローが仲間にならないなんて、そんなことが。

今までずっと思い通りに進んでいた分、酷い誤算だった。私だけで、ルフィを助けなければならない。

不安そうな表情をしている私に対してチョッパーが慰めてくれたが、それでも不安は消えてはくれなかった。

 

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