inシャボンディ
「お兄ちゃんありがとう!もう痛くないよ!」
「ああ……またあんまり走り回って転ぶなよ」
俺の目の前で石に躓き転んだ子供は、泣いていたのが嘘のようにまた元気に走り出した。 あれ、また転ぶんじゃないのか。
ドフィにお使いを頼まれてシャボンディ諸島に来たんだが、ここは本当メルヘンチックでいい処だな。
シャボン玉が幻想的で綺麗だ。遊園地があるのもいい。夢の国みたいで子供の憧れだろう。 これで人間屋とか人さらいがいなければ最高なんだが、ここの商売殆ど仕切ってるのドフィだから仕方がないか。
お使いのお金と一緒に、ドフィからお小遣いもたんまり貰ったのでドフィと幹部の皆になんかおみやげでも買っていってやろう。 饅頭とか、はたまたせんべいがいいのか?ドフィの好みはよくわからない。シュガーはブドウ味の飴でいいか。本当ブドウ好きだからな。あとせっかくだから可愛いぬいぐるみでもあったら買って帰ってやろう。他のやつらは、適当においしそうな食べ物でも買っとけばハズレはないだろう。たぶん。
「おい、いたか!?」 「こっちにもいない!」 「うわああああケイミー!」
なんだか騒がしいので辺りを見ると、何やら骸骨と狸と星と人間の男女が、かなり焦った様子で騒いでいた。 何だあの愉快なメンバー。骸骨と愉快な仲間達。骸骨が奇妙すぎて度肝を抜かれた。やっぱりグランドラインも十分恐ろしいな。
あまり声はかけたくないし、関わりたくないやつらだったので困っているようだがここはスルーし、お土産屋を見に行こうと無視を決め込んだ。
そして、何も見てない聞いてないというようにそいつらの横を素通りしようとした所で、あろうことか骸骨と愉快な仲間達の一人の青年に「なあ、お前!人魚見なかったか?」と声を掛けられてしまった。いや、こんな陸地で人魚なんて見るわけねぇだろ。大丈夫かこいつ。
声を掛けられたなら無視する訳にもいかず、取り敢えず俺には関係ないという風に「あ?知らねぇよ」と一同をあからさまに苛ついた表情で睨み付けて言ってやった。
これでもうこいつらは関わってこないだろう。 しかし、それだけでは終わらなかった。
「と、トラファルガー・ロー……!?」
女の一人が、それはもう目を見開いて俺の顔を見てそう言った。
「……あ?」
女が言ったトラファルガー・ローというのは、たしかに俺の本名だ。
しかし、ローと呼ばれるのはいつまでも慣れなかったので、ドフィ達からはもうずっと前世の名前であるナマエと呼ばれている。 そして俺の周囲の人間は皆俺をナマエと呼ぶので、いつしかそれが俺の名前になり、トラファルガー・ローという名前は呼ばれなくなって皆忘れていった。
「やっぱり……貴方、トラファルガー・ローよね!」
そのはずが、俺が知らないこの女は、何故俺の本名を嬉しそうに言うんだ?何故知っている?
「……たしかに俺はトラファルガー・ローで合ってる。だが、なぜ見ず知らずのお前が俺の名前を知ってるんだ?」
「えっ!?じゃあ貴方が“死の外科医”ですか?」
骸骨が驚いたようにそう言った。
「“死の外科医”って何だよ。誰が言った。何だその外科医のくせに人殺しそうな異名は」
俺の異名はそんな物騒なものではなかった筈である。誰が言ったんだよ。 たしか俺の異名は……なんだっただろうか。忘れた。まあそこまで重要なことではないし別にいいか。
「……ねぇ、トラファルガー・ロー。人を探してるの。緑の髪をした女の子なんだけど、よかったら一緒に探してくれない?」
女が俺の手を握り、まるですがるような顔でそうお願いしてきたが、なんで俺がさっき会ったばかりのお前らのために人探し手伝わなきゃならねえんだよ。おかしいだろ。
「断る。俺はこれから行かなきゃならねぇ所があるんだよ」
そう、お土産屋という場所にな。
それに、早めに帰らないとドフィと今日食事に行く約束がパーである。お前らのために潰している時間はこっちはないのだ。
俺は女の手を振り払い、早めの速度で歩いていく。 ああ、ドフィのお土産本当にどうしようか。
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