「名前は今年、"アイツ"にやるのか」

 休憩ルームにて。私と鬼、奏多、そしてカズヤのいつものメンバーでソファに座って、テレビを見ていたのだが……、たまたまワイドショーでバレンタインのインタビューをしていた場面が映った。

「普通別れたカップルに聞く?」
「鬼はデリカシーってもんがないの」
「同感です」

 それなのに、私の話題になれば"平等院"にチョコレートをって……、何考えてるの。元カレだからって義理だろうが本命だろうが、私は何もあげないよ。

「それとも鬼は、名前にチョコを貰いたいのかな」
「はあ?何故そうなる」
「確かに。遠回しに言ってる気がしますね」

 鬼は図星なのか、黙り込んでしまった。まあ、鬼は貰うよりはあげてる方だからね。施設の子供達に。バレンタインにはチョコレートとか配ったりしてるらしいし。みんなに彼女がいなくても、義理であげてもいいけど。買いに行くと見つかったら面倒なんだよね。

「じゃあ、言い出しっぺの鬼にお願いがある」
「……なんだ」
「ここじゃ、奏多とカズヤには聞かれたくないし。メールする」
「なんで僕達の前じゃ話さないの?名前」
「俺はなんとなく分かってます」
「僕も察してるけど、何も止めないし。期待はしてないよ〜」

 素直じゃない私は一度休憩ルームを出た後、メールで鬼を呼び出して商店街……、ではなく近くのショッピングモールに出向いた。元カレとは言え、恒例になってるからバレンタインは必ず鳳凰に、こっそり渡す事にしている。でもこの事を直接みんなに言ってない。
 と言ってもどっち道知られてるみたいだし、私達の邪魔をしないように気を遣ってもらっているみたいだ。期待はしてしないって……、そしたら奏多にはあげないよ。
 そんな高校生にも毎年義理としてやってるけど、知らない方が鈍い。今回は中学生もいる。ので、私は60人以上のチョコを用意しなければならないのか、と思うと頭痛がする。アイツだけに渡すと余計うるさいだろうし。女1人だからね。

「手作りは嫌だよ。めんどくさい」
「俺も子供達に作る予定だ。人数は少ない方だから手伝う」
「こっちは60人以上だよ!?コーチ達にもやらなきゃいけないし、1日で作れるとでも!?」
「まだ1週間……、は切ったか。2人なら出来るだろう」
「美味しくなかったら何言われるか」
「大丈夫だ。互いの材料を買い集めて、少しずつ取り掛かろうや」

 今までは高校生数人だったから買ってきた物を渡したけど……、今回は作る羽目になってしまった。材料を持って帰っても見られたら直ぐにバレるし、色々と大丈夫かな……。心配になってきたよ。
 一応揃えて見られないように帰宅し、鬼と厨房を借りた私は、早速バレンタインのチョコレートを……、生チョコを作る事にした。

「これなら子供達も食べれるな。間に合って良かった」
「後は配るだけだね。1つは混ぜないように、気を付けないと」
「そう言えば、別で何か作ってたな」
「……鳳凰にはビターのトリュフ。あ、ボンボンにすれば良かったかな」
「俺達は未成年だ。無理だろ」
「……鬼は、可愛いクッキーを作ったんだね」
「ああ。喜んでくれるといいが」
「あんたは大丈夫でしょ」

 6日も費やし、厨房を貸し切り状態で作っていた私と鬼。匂いがこの合宿所に充満してなければいい、が。私達はラッピングしたチョコレートの箱をそれぞれ大きな袋に入れて、当日を待つだけだった。




平等院とデューク
(これは……)
(どうしました?お頭)
(……部屋に名前が来なかったか)
(名前さん……?今日は見てないですな)
(練習中に来たって事か……)
(……それは)
(チョコレートだ。惚けてるようだが、お前にも置いてったんだろう)
(……今回中学生も来て、きっと色々考えたんでしょうな。お頭だけ、毎年ラッピングが違います)
(良く覚えてるな)
(名前さんにとって、お頭は大切な人です。頂いたら)
(言われなくても分かってる。手間かけやがって)
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