君の優しさが苦しい | ナノ
「い〜ざ〜やあぁぁぁ!!!」

今日も校内に響き渡るのは馴染みの人間がこれまた馴染みの人間の名前を叫ぶ声。
その声を聞きつつ一瞬だけ意識を現実世界に向けた門田京平は、またすぐに自らの手の中にある文庫本に戻した。

数十分後、きりのいいところまで読み終わったのだろう。京平はしおりを挟み、文庫を学生鞄の中にしまうと立ち上がった。図書室を後にしようと扉を開け、施錠のため鍵を鍵穴に差し込むところでその手を何者かに掴まれる。

「?…なんだ臨也か…」

「なんだはないよドタチン。今から帰るの?暇ならさ、俺に付き合って欲しいんだけど?」

「べつに構わないが…」

そう京平が返すと臨也はやった!と大げさに喜び、閉じようとした図書室の扉をくぐる。
京平は呆れつつも臨也の我が儘には慣れたものだ。彼に続いて再度図書室に入室する。
下校時刻をそろそろ過ぎようという時刻。辺りは夕刻の時を示すようにオレンジ色に染まっていた。
臨也は図書室の中でも唯一大きな窓の傍らに立つと下方を見下ろし、楽しそうに笑った。

「あはは、シズちゃんま〜だ俺の事探してる!キョロキョロしちゃって、馬鹿みたいだよね?ねぇ!ドタチンも見て見なよ」

「臨也…」

「なに?見ないの?」

「傷を見せろ」

「は?傷?意味わかん…」

臨也の言葉を遮り、京平は彼の腕を強引に掴むと袖の部分を肘あたりまで捲り上げた。
そこにはあまり出血はないが臨也の白い腕には目立ちすぎる青痣が広がっていた。

「青痣か…。これでは施しようがないな。包帯なら持ってるが、いるか?」

「っ…いらないよ…」

そうか。そう返事を返し、京平は臨也の腕を解放した。
京平は背を向け、鞄からまた文庫本を取り出した。続きを読むのだろう。
その背中を熱っぽく見つめる臨也に、京平は気付いているのかいないのか。
おそらく後者だろう。
臨也は知っている。京平が包帯を常備していること。それが自分のためであることも。
臨也は知っている。京平なら隠そうとしても必ずや自分の怪我に気付いてくれること。
臨也は知っている。それは全て『友人』としての優しさであること。

京平は優しい。それは誰に対してであっても分け隔てなく与えられる。
臨也はそれが苦痛でたまらなかった。
初めて会った時から彼に心奪われ、ずっと彼の特別になるにはどうしたらいいのだろうかと悩み続けていた。
そこに現れたのが平和島静雄だ。臨也は静雄を利用していた。静雄との喧嘩は派手さを極めた言ってみれば死闘に近い。そんな喧嘩で普通の人間である臨也がなんの被害も被らないなんてむしろ稀で、大概はどこかしらに怪我をしていた。
怪我をすると京平はいつも心配してくれる。
やめろと忠告も毎度ついてはくるのだが。ほら、今日も…

「臨也。お前、静雄に絡むのいい加減やめたらどうだ?」

「なんで?やめないよ?」

君が俺を見てくれるまで。
君が俺だけに優しくしてくれるまで。
俺は、君に心配をかけ続けるよ。

だって、俺は…


君の優しさが苦しい







*素敵企画「職人と情報屋の日常」様提出物
企画デビューです。あまり素敵お題を生かし切れてないです…。
素敵企画に参加させていただきとても光栄でした!ありがとうございました!
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