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「ごめん」

俺が彼の命令とは違って返すと、今度は泣きそうな顔になった。

ごめん。
俺が解んないように、やっぱり彼にだって何でも解る訳は無かったんだ。

“好き”とか“愛してる”も、彼から与えてもらうだけのものだ。
そういえば一度も、彼に伝えたためしがない。

さっき悲しそうだったのは、言わせるからか。
泣きそうなのは、俺が言いたくないと思ったからか。
俺が好きじゃないと思ってるからか。


俺も彼も言わなきゃ伝わらないのだと、初めて知った。


「なあ、愛してるんだよ」

そう告げて彼の唇を奪った。

自分からなんて、これも初めてだ。
驚いた彼は目を見開いたまま硬直している。
しかし口は半開きのままだから、それをいい事に俺は貪っていく。


自分から言い出しておいて、命令は聞かない。
それどころか勝手な行動をする。
俺が飼い主なら、躾けなければと思う所だ。
でも彼は俺に酷く出来るんだろうか。想像も出来ない。

我に返ったらしい彼がやり返してくる事で増した水音を聞きながらそんな事を考える。


基本的にやりたいように生きてきた俺は、キスしたまま彼の襟元へ手を伸ばす。
1つ2つとボタンを外していけば、すぐに彼は気が付くだろう。

いつも通りに事に運ぼうとしたのに、その手は途中で彼の手で止められた。

「発情期?」
「犬だしな」

楽しそうな顔でからかうような彼に、適当に返す。

「ちゃんと飼い主が面倒みないといけないよね」
「当たり前だろ」


言葉にしよう。

そう決めた俺は、いつもならここら辺で黙り込むけど、
今日からは脱がされ返されても、首を舐められようとも口を閉じない事にした。


「喋ってくれるの?」
「決めたから」

彼にもそう宣言した。

付き合う事になった時並みに嬉しそうな顔を見るに、俺は正しい事が出来ているんだろう。
ちょっと頑張ろうと、今日決めた。



 
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