「俺を飼えよ」
苦肉の策で浮かんだのはそれだけだった。
俺の可愛がった子には程遠くても、彼の子よりは可愛げがあればいい。
何にしろ、うちの子が一番可愛いになれるなら、それがいい。
そうすれば恋人じゃなくても手放さないだろうし。
「どうしたの?」
困った顔で彼は笑った。
「解んないんだ。でも、犬なら飼い主の命令に従うものだろ?」
少なくともあの子はそうだった。
だからここは俺の常識でいかせてもらう。
彼は彼で、よくわからなそうに首をかしげる。
「命令されたいの?」
「あるなら」
「何かの遊び?」
「本気」
「犬がいいの?」
「半分」
「もう半分は?」
「恋人」
「だけじゃダメ?」
「解んないから」
「何が解んないの?」
「色々」
5回以上のやり取りをしても口を閉じない俺に何かを感じたのか、彼は真剣な顔で少し考え込んだ。
詳しい事情は聞きだすのを諦めたか後回しにしたんだろう。
「されるんなら何に対する命令がいい?犬?それとも恋人?」
そう尋ねてきた。
もしかすると、なんとなくでも俺の意図に気が付いたのかもしれない。
見ているだけで彼は俺の事なら何でも解るらしいから。羨ましい限りだ。
「恋人」
「うん。じゃあ、好きって言って」
笑ったままなのにどこか悲しげに彼は言った。
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