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絆されていたのなら、まだよかった。
思うままに過ごせる彼の恋人という関係の心地良さに酔っていただけなら。


なのにいつの間にか、ちくちくと刺し広げて、ついには自覚する程に俺の心の敷地面積殆どが彼で埋め尽くされてしまった。

それだけならまあ、問題は無かった。
俺のして欲しい事すべては叶えられるのだから。

だけどその次に、気づいてしまった。
俺が何かをして欲しいように、彼も何かをして欲しいんじゃないだろうか と。

思えば俺は恋人らしい事など何一つしていない。
あまり外には出たがらないし、たまに何処かへ出かける時も必ず彼が計画を立て、俺はそれに乗っかるだけだ。
その彼が一生懸命考えて立てた計画も、疲れれば途中帰宅もよくあるし。
プレゼントなんかも、あげた事が無い。貰ってばかりだ。
イベント事には興味無いし知識も無い。
そんな俺にすべてを与えながら彼は笑う。

これでいいのか?

今更になって疑問に思った。

だけど彼はこれで幸せだという。
俺が恋人でいるだけで、自分には過ぎる程だと。
もっと、という欲は彼に無いのだろうか。
俺にはできてしまった。

これで幸せなら、俺がする少しの事で彼はさらに幸せになれないだろうか。
喜ばせてみたい。
生まれて初めて、自分以外のために何かがしたいと思った。
……いや、これも俺のわがままなのかもしれない。


とにかく何かしたいと思った。
だけど、ちょっとした何かさえも、思いつかなかった。

それどころか、新たに疑問も追加された。
今のこの状態は、果たして俺の理想なんだろうか。
楽じゃない。しかもちょっと苦しいのに。
あの頃の俺の理想とは違うんじゃないか?
その答えも見つからない。

これは俺が今まですべてを遠ざけていた代償だろうか。
しかし、思いつかない事にはしょうがない。


 
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