俺は犬が好きだ。
何故かと言えば、昔飼っていたから。
その子はとても大人しくて言う事をよく聞き、俺が気の向いた時にちょっかいを出しても誘いに乗ってくる。
逆に、遊んで欲しそうな時に無視をしても機嫌を損ねない。
寒いと抱き込めば大人しく腕に収まっていたし、暑いと布団から追い出したら足元で丸まって眠った。
言いたい事を怒鳴り散らしたら文句も説教もせずに、ただ黙って俺の話を聞いていた。
相手は喋らないから当たり前と言えば当たり前だけれど。
俺はそんな犬が好きだ。
煩わしくなく、かと言って俺を放置もしない。
逆に言えば、人間が嫌いだ。
面倒くさいんだ。人間関係その他諸々が。
俺が好きな時に楽しめて、必要無い時にはそっとしといて貰える。
それが俺の理想。
無理なのは解っているけど、せめてまだ自由にできる子供でいられる内は、煩わしい事から離れたい。
以上の事を少なめの息継ぎで言い切った俺は、ちょっとの息切れをおこしていた。
「そうなんだ、奇遇だね。
俺も犬が好きだよ。昔飼ってたから」
俺の発言の最後を無視するように彼はそう言った。
「でもうちの子は全然違ったな。
懐いてはいるんだけど、あんまりいう事聞かなかったし。
自分の気が向いた時には撫でろってしつこくて、その癖こっちから撫でようとすると歯をむき出しにしてうなるんだ」
……うちの子とは大違いだ。
そんな性格の犬だったなら、俺は果たして犬好きになっていただろうか。
きっと俺は犬が好きなのではなく、飼っていたあの子が好きなんだろう。
そんな事を考えていると、彼は笑って続けた。
「だけどそんな子でもさ、うちの家族にとっては一番可愛いんだ」
「まあ、そういうもんだろうな」
「その影響なのか、俺はそういう性格の子が好きなんだよ」
それはもう、いい笑顔で。
何故この場面でそんな顔をするんだと呆気にとられる俺に言う。
「だから俺と付き合おうよ。きっと相性良いよ」
……そう、俺は彼に告白をされていたのだ。
返事の代わりに、俺は恋人だとか言う物は必要無いと言ったのに、彼はまだ諦めない。
「犬と同じ扱いかよ」
「違うよ。そっちがいいならそれでもいいけど」
「いや、人でいい」
「うん。じゃあ付き合おっか」
「ああ」
なんかもう、彼とやり取りするのさえ面倒になってきた。
だからもういいか。と、俺は人生で初めての恋人を作る事になった。
ただし、条件をつけた。
「俺の理想が続くまで」
「精一杯、努力します!」
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