月下美人








俺に浴びせるような光はねぇってか



上等じゃねぇか
俺だって、今更そんな明るみで生きていけるなんざ思ってねぇよ


雨雲が月に影を落としていく
まるで闇が染み込んでいくかのように
じわじわと








『あら土方さん。御免なさいね、今日はもうお店お終いなの』


すまなそうに店先の、のれんを片付ける背中が広く見えた

無性に話がしたくなって
気がついたら此処まで足を運んでいた



『そうだっ、少し…相手してくれない?』

店じまいを終えた高橋さんは
にこやかな笑みを浮かべ
くいっと酒を口に運ぶ仕草をする


「ああ…」


さっ、上がってと
促されて店裏の縁側へ向かう


『…にしても今日は随分男前な格好ね』


「‥っ、悪ィ」

自分の姿−−−−

紅く紅く、染まる隊服

べっとり、とこびりつくソレを思い出し
言葉に詰まる



『大丈夫なの?』


「怪我はしてねぇ……これは」

これは?

俺の、……違う

切り合った奴の

血、だ


自分の言葉にバツが悪くなり
苦笑いを浮かべる


『苦しそう…心は怪我をしているわよ?』




俺の心が傷ついている…
鬼とまで例えられるこの俺が

「生憎俺はそんなに柔じゃねし、一々躊躇してたら守れるもんも守れねえ」

『傷つくのは温かさをしっているから
苦しむのは沢山のものを抱えている証』

「っ…」

此処には大切なものも、守りたいものも
沢山詰まってるってことじゃない

射抜くような真っ直ぐな視線を向け
俺の胸に杯を押し当てる




『ほら、暖かい。貴方は誰よりも強くあろうとする、誰よりも人間らしい人よ』

ただちょっと不器用なだけ

『自分のこと許してあげたら?』




許せる訳がねえ
どんなに理由を繕っても
それは俺のエゴでしかない




『私は貴方を許す。だから、ね?』

「っ/////」


何だ、俺は許されたかったのか
こんな汚れた俺さえも
受け入れて欲しかったんだ


アンタなら、
アンタならこんな俺にも
手を差し出してくれる

そんな確信に近い思いが、俺の足を此処に向けたんだろう



『ほら、綺麗な月』

丸くなりきらねぇ月が雲の陰から現れた

ソレをさっきよりも綺麗だとか感じたのは
俺の目の濁りが
ちったぁ晴れたってことだろ





−−−−−−


【月下美人】
君は極めて優しい感情を呼び起こす
(フランス)

ぐだぐだですね…
私の中ではもう少しシリアスだったんですが、読んでみたら…て感じです



土方さんは、江戸の平和の為に刀を振るう訳ですが、どんな理由にせよやってることは人殺しで、どんなに町の人に感謝されたとしても胸が張れたもんじゃない…

そんな土方さんの葛藤のお話でした





- 5 -


[*前] | [次#]
ページ:




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -