彼は無口な人です。
私も口数の多い方ではありません。

しかし、この沈黙は全く辛いものではないのです。私達の間に流れる静かな時間がとても落ち着くからです。

無言の時間、確かに私達は同じ気持ちを共有するのです。

例えば今、帰路の途中、我が家へと繋がる道の上で、彼は斜め後ろを気にしています
何故、斜め後ろかと申しますと、そこに私が居るからなのでしょう。

私は自ら彼の隣を歩く事はしません。
その光景は、彼にしっくりと馴染んでいるので、尚更この距離を保つ事に励むのです

こう言った理由から、私は彼の斜め後ろを歩くのです。

少し話が遡りますが
今も彼は斜め後ろ基、私を気にしています
更に厳密に言えば、私の手に視線を寄せては前をむく、を繰り返しています。
心なしか顔が赤い気もします。

それを見て、私の顔にも熱が集まるのです
私には彼が何を思っているのかが分かってしまうから。


彼はきっと、今日の昼休みに私達の手が触れ合った事を思い出しているのでしょう。
その証拠に自らの左手の絆創膏にも目をやっています。

彼のごつごつとした豆だらけの手に、似つかわしくない淡い桜色の絆創膏は、私が昼休みにはって差し上げたものです。
桜の花のワンポイントが可愛いらしく、私のお気に入りの絆創膏なのです。

そのときの彼の顔は絆創膏よりも濃く色付いていました。きっと私の顔も例外ではいかった筈。それほどに、互いの手が触れ合う事が気恥ずかしく思えたのです。



『弦一郎さん、どうか為されましたか?』

「そ、そのだな……て、手を繋がんか?」

『はい』


私は自ら彼の隣へ行くことはしません。
しかし彼が隣を空けて下さったのなら、喜んで歩みよりましょう。


周りの方々は、私達の関係を古風な夫婦のようだと言いますが
これが私達の関係であり、距離なのです。
そこには不満など存在しません。

彼は夜道を歩く時は必ず隣を空けて下さるし、さりげなく車道側を歩いて下さります
手だって、人目のない所では繋いで下さるのです。


『………』

「………」


相変わらず私達の間には会話がありませんが、この落ち着かない胸の高鳴りを確かに共有しているのです。
彼の耳を見て、私はそう確信しました。


無口な彼




言葉がなくても伝わる思い






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