※幸村入院中





「ありがとう」


一瞬、言葉の意味が理解できなかった
やっとその言葉の持つ意味を思い出し
次に訪れたのは感謝の対象が何なのかという疑問。

それを読み取ってか精市が言葉を補う
「花も、ノートも、それに、毎日来てくれて。…俺の傍にいてくれて、ありがとう」

『…なっ、何よいきなり』
一拍遅れてしまった返事。
ときめいたとか、恥ずかしいとか、そんなことが原因なんじゃない。
感じたのは違和感。はっきりとは言い表せないのだけど、あえて挙げるならば、優しいのだ。
いや、精市は普段から優しいのだけど、
細かな気配りも上手だし、
でも普段は彼の少々(大分と)天邪鬼な性格が災いしてか、その気遣いが表面化しにくく誤解を招くなんてことも多々とある。

そんな精市の性格を理解しているからこその違和感。
彼が紡ぐ言葉には穏やかな優しさを感じる
とても、とても暖かい。
嬉しい筈なのに、漠然とした違和感を拭いきることが出来ず、悲しいとすら感じる。


「折角の俺からの感謝の言葉なのに、可愛いげのない反応だな」

『なんと失礼な。どうせ可愛いげのない女ですよー』

「ウソ、ウソ。名前は可愛いよ」

『何か企んでる?』

「いやだなぁ。素直な気持ちだよ」

『素直な精市なんて、怪し過ぎる…』

「名前こそ失礼だね」

『常日頃の行いの結果よ』

「多少のイジワルは愛故だよ。俺、好きな子程いじめたくなる性だからさ」

わかった、この違和感の原因が
笑顔が違うんだ

『このザディストめ』

「名前の拗ねた顔は可愛いからね」

声色とは裏腹に、とても切なく笑うから
私まで悲しくなったんだ。

『本当に、今日はどうしたの』

「今日はそんな気分なんだ」

普段は、自分の気持ちを隠すのがあんなに上手いのに、弱い所を見せたがらないのに今はとても脆く見える

「名前が愛おしくてたまらないんだ」
私はそれを聞いてより一層悲しくなった。
精市からは今も沢山の言葉が紡がれている
マネージャーに成り立ての頃の珍失敗が可愛かっただの、私の作るスポーツドリンクが1番美味しいだとか、多分そんな感じだろうか。
残念なことに私の頭には全く入ってこない
体が精市の言葉を聞くのを拒絶するのだ。

「これからもテニス部を頼む」

『…………くない、』

『…聞、たくない……そんな、こと言わないでよっ』

だって、それじゃあ

まるで、

遺言みたいじゃない

『……テニス部のみんなが心配なんだったら、自分で見に行きなよ。』

みんな精市の場所空けて待ってるんだから



−−−−−−−−−−−−−
ヒロインはマネージャーで彼女




- 12 -


[←] | [→]
ページ:



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -