暗夜行路〜アイギスと真宵〜 | ナノ

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 真宵に手を引かれながらアイギスは考えていた。
 真宵を探しているときに問われた真田の言葉が何度もリピートされる。

 いや、『一番大切』というのは知っているが、それがどういう種類なのか気になってな。

 どういう種類なのか。
 それが大切というのに付随あるいは起因する感情のものを問われたのだとアイギスは理解できたが、それが何なのか答えることはできなかった。

 人が何かを大切と思うときに生ずる感情の種類をいくつか挙げることはアイギスにもできる。しかし、それは「人が」である。
 ペルソナを扱うために人格を与えられたとはいえ、縁遠い。

「どうかした?」
「…いえ」
「何か、悩んでた?」

 悩む。

 状況を正確に把握して、最良な判断を下し行動する。それが人格を持っているとはいえ、機械がすべきことである。今回も真宵を探したのも、守るべき真宵がいないから探さなくてはいけないという判断があったからだ――だから、それだけなのだ。

 それを真宵に「悩んでいる」と言われてアイギスはまたもや答えることができなかった。何処か思考系が不具合を起こしているのだろうか。一度、幾月か美鶴に報告してラボで整備をしてもらったほうがいいのかもしれない。

「……あの」
「ん?」
「いえ…、すみません。言葉が、思いつかなくて」
「そっか。…何に悩んでいるか訊いてもいい?」
「アイギスにとって、あなたは大切な…特別な存在です」


 ズシャッ


「へ、えっ? え!? 先輩、大丈夫ですか!」
「荒垣さん、大丈夫でありますか?」

 少し後ろを歩いていた荒垣が派手に転んでいた。
 荒垣は「あ、ああ。気にするな」と手で制すのが見えてアイギスは止まる。別段怪我はなさそうだが、やけに顔をしかめていた。

「えと、それがアイギスの悩んでいることなの?」
「守りたい、守らなければならないと…知っていますが、その理由がわからないんです」
「理由? それは、えっと…うーん」

 ごめん、それは私にも答えられない、と真宵は困り顔になった。

「でも、うーん。私もアイギスが大切だよ」
「…真宵さんが?」

 なんだかそれが思いがけないことでアイギスは訊き返してしまった。真宵は「うん、だからアイギスがそう言ってくれると嬉しいよ」と言うと、アイギスの手をしっかりと握った。

「…はい」

 真宵に嬉しいという「気持ち」を返すことはできなかったが、アイギスもそっと握り返した。




暗夜行路〜アイギスと真宵〜