人の寝顔を見るのは初めてかもしれない、と真宵は荒垣の顔をじっと見た。 どういうわけか、今年に入ってから真宵は寝顔を大勢にさらしている。ラウンジや教室で寝ているわけでなく、自室で寝ているところというのが普通と違うだろう。 4月の転入したばかりの時には、ゆかりや美鶴だけでなく幾月に監視されていたし、アイギスには屋久島から寮に戻ってすぐ見られた(どちらかと言えば見守っていたらしい)。見たというなら、一番多いのは――ファルロスか。 影時間に現れるファルロスの独特な気配は、真宵に夢のふちでも呼び起こすことがあるが、起きていないこともあるらしい(あるいは寝呆けているか)。その際はどうするのか一度訪ねた真宵に「君の安らかな顔を見てから帰るよ」とさらりと言われた。 これがファルロスでなかったら通報ものだと思っていたが、なるほど、と真宵は納得した。 寝ている顔というのは、本人が思う以上に無防備だ。荒垣の場合、見た目が大人びていたのと、他者をどこか遠ざける雰囲気が消されて年相応、あるいは少し幼く見せていた。 あ、睫毛が長い。 こんなに近付ける機会はない、と段々遠慮をしなくなりながら(とはいえ最新の注意を払って)観察する。そんな状態に飽きたのか、コロマルは階段を上がっていってしまった。 ……眉間にシワ。 少しおかしく思って、真宵は折角だから伸ばしておこうと手を出すと、 「……、……」 バレないよね、と小さく心のなかで呟いた。 「ただいまー」 「! お、お帰りっ……。あ、えーっと」 「あれ…? 荒垣先輩、寝ているの?」 「うん、そうみたい。…あ、私、着替えてくるね」 そう言ってパタパタと三階に上がっていく真宵の様子に、風花が不思議がっていると「ハア……」と重いため息が聞こえた。 声の方を見やると、ソファーで寝ていた荒垣がてのひらで顔を覆っている。起きたらしい。 「あ、もしかして起こしちゃいました?」 「……いや、今…起きた」 なんだか歯切れの悪い荒垣だが、寝起きだとこういうものかもしれないと風花は納得して、じゃあ私も上に行きますね、と通り過ぎたが、そのとき、荒垣の耳が真っ赤であったことは結局気付かなかないままだった。 下がらぬ温度 ((……顔がまともに見れない…)) |