こんな機会は滅多にないのだと思ったら、真宵の目は荒垣のニット帽に注がれた。順平のベースボールキャップと同じように、荒垣もトレードマークのニット帽を脱いだところを見たことがない。 いや、あったかもしれないが注視したことはなかった。 誰も疑問だなんて言わないから今まで流していたが、けっこうな重装備である。 「………先輩…?」 「………」 声をかけるが反応はない。 寝ている。 ごくりと生唾を飲んだ真宵はそっと手を伸ばす。ちょっとした好奇心から伸ばした手は、ドクドクと心臓を打って緊張感を漂わせる。希少シャドウの背後を得たりと言うような興奮だ。 あと、少し。 もう少し。 そして指先がニット帽のふちにかかった、 「うわっ」 「…何やってんだ。つか、何、しようとした」 がしりと掴まれたてのひら。 寝ていたはずの相手の不機嫌そうな声に真宵は手を引っ込めようとしたが、簡単に外れない。 「………」 「………」 「…えーっと、糸くずが」 「ふうん?」 「……嘘です。ごめんなさい」 ニット帽を取ろうとしました。 そう白状した真宵に、まだやや不機嫌そうな荒垣が「お前らはやることが一緒なのか」とため息を吐いた。 「? お前ら?」 「……伊織だ。伊織。あと、山岸もいたな」 どうやらすでにチャレンジャーはいたらしい――っていうか、順平がそれをするのは何故だろう、かなりの違和感がある(そして風花は好奇心に負けたのかもしれない)。 「順平も帽子属性なのに」 「……は? ……。なんでもいい、とにかく人が寝ているところを勝手すんな」 言われると荒垣が正しい。 真宵は反省し、荒垣に言った。 「そうですよね。すみません」 「まあ、わかったなら別に…」 「先輩、帽子を取らせてください」 「………」 わかってねえだろ、と綺麗に45度に腰を折った真宵の後頭部に荒垣の平手が当たった。 それは永遠の謎? (あ、もしかして、ハ…) (それ以上言ったら、犯すぞ) |