降ってわいた選択肢 | ナノ

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「ただい…ま…」

 珍しい光景に、真宵は語尾を小さくした。

 閉めかけたドアもあわててゆっくりと音を立てないようにして閉じると、希少シャドウを狙うときのように真宵は忍び足で近づこうとして、ビクリと震えた。
 真宵の足元には、帰宅を察したらしいコロマルがいた。

「しーっ…」

 人差し指を口元に当ててコロマルに言うと、ウゥ、と小さく声を上げた。クスクスと笑って真宵は目的地まで歩いた。

 近づくと、一人用のソファーに座っているが微妙に傾いた頭や、弛緩した手足が目の前にいる人物が寝ていることがわかる。膝に広げたままのテキストを覗けば、家庭の料理全集と書かれていた。

 にしても本当に寝ている。

 荒垣がこうも無防備に寝ている姿は見たことがない。まあ実際、真宵もメンバーが寝ているところを見るなんてそうそうない(以前、真田がソファーで寝ているのを見ただけだ)。

「…寝ているのかな…」

 真宵の言葉にコロマルは行儀よく座って、パタパタと尻尾を振った。

 こんな機会は滅多にないだろうな、と思ったとき、ふと、頭に浮かんだのは、


帽子を取る。
携帯電話を取り出す。
顔を近付けてみる。





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