肉ガム。 商品名としてさりげなくしかし、はっきりと印刷されたその文字に「ムリ」とゆかりは言いきった。 タルタロスで身体を動かしているのに、お菓子は別腹と口にしていたのがまずかったのか春と数字が殆ど変わらない。満月に現れる大型シャドウの残数と月を数えると来年にはタルタロスには行かない上に、受験生となったら部活に顔を出す事も減ることを考えたら体型が維持どころか――そんなことを愚痴っていたゆかりに真宵が「そういえば、合宿先でこんなの貰ったよ」と出したのがそのガムだった。 「向こうの生徒の子に、お菓子が絶ちたくなったらコレいいよって」 「……肉、ガムって、お肉の味がするガムってこと?」 「っていうかその勧め方って暗に美味しくないって言ってるよね、確実に」 「地方限定の商品なのかな。何のお肉の味なんだろ」 「風花、食べるの?」 引き気味のゆかりに風花はパッケージが開けられていない肉ガムをしげしげと見ている。 「え!? で、でも、ちょっと気になるよね」 「気にはなるけど…でも、肉、だよ?」 「けっこう勇気いるよね」 「っていうか、罰ゲームよ。罰ゲーム。去年流行った青汁シャーベットと同じよ」 「あ、アレって青ひげファーマシーなんだね。店長さんが言ってたよ」 「真宵ってホント顔広いよね…。ってわけで、順平! 食べてみてよ」 「ちょっと待てぃ! 今、ゆかりッチ、自分で罰ゲームって言ったじゃん!」 だから順平なんじゃん、とゆかりがすげなく言うと「ひどい!」とおおげさに泣き真似をする。 普段ヘタれてんだからこういうところで役に立ちなさいよ、と思うがそこまで言うのは流石に可哀想すぎるかなと口をつぐむ。すると階段から下りてきた真田にゆかりは眼を輝かせた。 「あ、真田先輩! 珍しいお菓子あるんですけど、食べませんか?」 「珍しい菓子?」 鬼だ、と呟いた順平の鳩尾に拳を鎮めたゆかりは、うずくまる順平に眼もくれない。 真田は「何やってんだ?」と順平を一瞥したあと、テーブルにおかれたガムを手に取った。 「…肉ガム?」 「真宵が合宿先で貰った地方限定のガムらしいですよ」 「へぇ…いいのか?」 「あ、どうぞ」 ペリペリと封を切って紙を開ける真田。 それを見守る後輩たちの眼は好奇と不安が入り混じったものだが、真田は気付かない。ゆかりの暴挙ともいえるそれに真宵と風花が口を出さないのも、プロテインまみれの牛丼を食べている真田なら大丈夫かもしれないとゆかり同様に思っているのかもしれない。 肉という名がついているだけあって包みから出てきたガムはほんのり茶色に染まっている。 そして、 グニッ、グニャッ、クチャッ 「……すごい」 「………うわ」 「……これ、ガムの音かよ」 「………」 もぐもぐと普通に真田は口を動かしているはずなのに、ものすごい音が鳴っている。 そして真田はとくに表情を変えずに「変わった味だな」と言って去って行った。 未知との遭遇 (人選ミスだったかも…はい、やっぱ順平!) (ひどッ!!) |