「なあ、伊織。お前って確か転校生と仲いいよな?」 「それに確か、隣のクラスの山岸っていう子とも同じ寮じゃなかったっけ?」 「へ? あ、そだけど。どした?」 普段親しくもないクラスメイトその1とその2(名前まで覚えていない)に話しかけられた順平は、食べていた惣菜パンを口から外した。「だよな」と順平の反応に頷くその1に、一緒に机を囲んでコロッケパンを包みから開けていた友近とサンドイッチを頬張っていた宮本も「どしたよ」と顔を上げる。 ちなみにゆかりと真宵は、中学部に出来たという新しい売店のコーナーを見に行くと出て行ってしまっていた(お菓子が多いとかはしゃいでいたが、昼間に食うのだろうか)。 「ほら、たまに家庭科室で料理してんじゃん? 二人で」 「……あー、そういやそんなこと言ってたっけ」 風花がつくった料理部――とはいえ人数が集まらずに同好会という形をとっていると聞いた事がある。 たまにおすそ分けと言って真宵から寮のメンバーに菓子が振る舞われていたりする、と順平が言うと「うわ、マジでか」とその2が声を上げる。 「それって、美味い?」 「フツーに美味い」 「ほら、やっぱり普通の料理してんじゃねーか」 「いやでもよお…」 「何の話だよ」 「順平は真面目な帰宅部だもんな、知らねーのも当然か」 うんうんと訳知り顔で頷く友近に、お前だって帰宅部じゃねーか、と思う。 まあ確かに倫理の叶を放課後まで残って追っかけているのを思えば『真面目な』帰宅部部員ではないだろう。友近が「宮本も知ってんだろ」と振ると、「はひが?」といまだ自体を把握していない宮本が口をもごもごと動かす。 「あー、もうコイツは。まあ、でも俺も詳しくねーけどな、ガキに興味ねーし」 「だから何? 俺だけ置いてけ侍?」 「いや、これ、本人たちには言ってほしくないんだけどさ。ダチが美味そうな匂いがするからってお菓子をくすねちまったらしんだけど……」 その視線が「今日は病欠だってー、食当りかしらね?」と鳥海が言っていた席に注がれる。 もちろん、その食当りの原因は何なのか順平は想像がつく。 「んなことしなくてもフツーにくれるのになー」 「え、何、友近食べたの?」 「宮本も居たぜ? ほら、こいつ剣道部で、叶先生はバレー部だし。部活終わりがてら通ったら、ちょーどバナナケーキがあるからってくれたんだよ」 「…ああ! あんときか!」 ようやく口のなかを空にした宮本がそう言って、「遅っ! つか、うるさ!」と友近が嫌そうな顔をした。にしても知らないうちにそんなことになってたんだなあ、と真宵の交友の広さ(といってもクラス内だが)に順平が感心していると「お前らはそんなんだからいーかもしんねーけどよ」とその2が口を開いた。 「喋ったこともねー女子…しかも何気に競争率ある女子の手料理を堂々とねだれない男心がわからんのかね」 「いや、どこの乙女だよ…」 「順平ならわかるかもしんねーよ?」 「なんでだよ!」 「それに、あのボクシング部主将が出入りしてるって聞いたらムリムリ…」 「あれを見た男連中が入部に涙を飲んだっていうからな…」 「あの毒チョコ…やっぱ真田センパイが牽制かけてんのかなあ」 「えげつないなあの人」 うんうん、と頷くクラスメイトたちに順平はハハハと乾いた笑い声をあげた。 何気に伝説の同好会 (…まさか言えねえよ、なあ。…お手上げ侍) |