緑間くんが探偵になって好き勝手する話。7 | ナノ

(探偵パロのつづき)

※前回の後、うろうろ彷徨っていたら弐羽清司を発見。
→衰弱しきっていましたが生きていたので、緑間が背負う。お互いは紐で括って繋いだ状態。
→それからしばらくして“鈴の音”を二人が聞いて、訝しみつつ音を頼りに移動。
→そしたら外に出れたよ!やったね!(オイ)
 そんなところまですっ飛ばしてます。



side:緑間

 意識がなく衰弱しきった弐羽清司を病院に運び、そのまま病院で一夜を明かした緑間と高尾は旅館鹿林に戻った。そして遅いチェックアウトを済ませた緑間が外に出ると、由貴子が立っていた。黒子からの連絡を受けて病院に駆けつけたときから涙を零していた彼女の目元は化粧を施されてもまだ赤い。

「緑間さん。…ありがとうございました」

 本当に、ありがとうございました。
 再度そう言って綺麗に頭を下げた彼女は、清司がどうやって見つかったかなどを追求することはなかった。ただ「見つけてくれてありがとうございます」と感謝だけを述べ、清司を彼の実家近くの病院に移送する救急車に乗って行った。





「ああ。僕にも彼女から連絡があったよ。ありがとうございますって」
「…そうか」

 というか、なぜ、夏に湯豆腐。

 空調設備によって涼しく保たれている個室でわざわざ食べるのが湯豆腐なのはどうしてか。冷奴ではいけないのだろうか。というか湯豆腐専門店なんてよく見つけたものだと緑間はくつくつと煮えられている豆腐をつついている元同級生・赤司征十郎を見た。

 廃墟ホテルから探偵事務所に戻った翌日、赤司から昼食を誘われて緑間は単身で彼と向き合っていた。ちなみに高尾は「積もる話もあるだろーからお構いなく」と事務所の冷蔵庫からビールを空けて断っている。

「単なる行方不明じゃなくて、怪異の仕業か。その仮説はいつから考えてたんだ?」
「オマエから連絡があったときからだ」

 緑間の答えに赤司は「へえ」と相槌を打つ。

「どうしてだ?」
「オマエは昔から引き当てるのが上手いからな」

 中学生だった頃、商店街の抽選に行けば一等賞。常にアイスキャンディの棒にはアタリの文字。極めつけは夜中に忘れ物をしたというガングロ同級生に付き合って、全員で肝試しの真似事をしたら赤司がホンモノを見つけてきた。理科準備室にある人体模型に追いかけられるという体験は後にも先にもコレ一度きりである。
 アレと比べれば今回の怪異現象など可愛いものだった。

「他にも理由があるんだろ。あの廃墟で怪異が起こることについて」

 とにかくこの話題で雑談を楽しみたいらしい。
 緑間はあの夜に高尾と会話していた内容を思い出す。

――高尾。オレたちはホテルの火災原因を調べにきたわけではないのだよ。
――わかってるって。けど、無関係なのか?

 無関係ではなかっただろう。でなければただ廃墟のホテルに怪異など起こるはずもない。
 高尾が指摘した通りの違和感を緑間は最初の探索から気にしていた。火元でもない場所から出火するはずがない。それで当時の事件を調べてみたがほとんど分かることはなかった。
 だが、

――正直、山のホテルがある頃は大変だったみたいよぉ。…ホント、一時は潰れちゃうんじゃないかって…。

 ホテルが健在だった頃、確かに鹿林は客の多くを吸われて経営難に陥っていた。

――ここの女将さんは代々信仰深い人でね。ああ、今日は女湯になっていた方の露天風呂には小さな鳥居があるんだよ。

 その翌朝、男湯に切り替わった露天風呂に確かめに行くと商業を司る稲荷の鳥居があった。

――あの山って、ホテルができる前まで人が入らなかったのよ。うちのお爺ちゃんは天狗がイタズラするからだって。…アレ?……ちがったかも。

 天狗という言葉は別名を「アマキツネ」と呼ぶことがある。大陸では天狗というのは獣の姿をした妖怪だとも記している。

 推測の域を出ないが商売敵の出現により経営難が悪化した旅館の人間が、ホテルに対してなんらかの恨みを抱いていたとしたら――人の念というのは形がある以上、残り続けることもありうるのではないだろうか。そこに感受性の強いものや弐羽清司のようにもとが強くなくともアンテナが高まった状態ならば……幸か不幸か、緑間が高尾とともにあの怪異に遭ったのも、緑間が清司のアルバムを見たという事実があったからか。

「ふうん。そう考えるなら、弐羽清司が助かったのは、彼がずっと握り締めていたっていう市川由貴子からの御守りがあったからなのかもしれないな」
「オマエが言うと薄ら寒いのだよ」
「そうか」
「ああ」
「じゃあ、お前たちが助かった理由は?」

 赤司の問いに緑間は湯気で曇った眼鏡を拭きながら答えた。
 
「もちろん、ラッキーアイテムのおかげなのだよ」



end
20120731