「お帰りなさいませ。お嬢様」 「…テオは執事だったの?」 「いえ、ベルボーイです」 「だよね。じゃあ、今日はどんな趣向で?」 「今、外では女性を遇すさいにこのようにするのが流行りだと伺いましたので。いつも同じでは、お客様を飽きさせているのではないかと、その…姉から…」 「ありがとう。けど、私はいつも通りのテオが好きだよ」 「朔さま…」 「それに―――銀髪金目の超絶イケメン、イケボ、紳士なのに天然でお姉さんたちに弄られる弟属性とかまさにキャラ付けのゲシュタルト崩壊しかかってるのに、これ以上執事とか新しいスペック増えてもお腹いっぱいだから」 「………」 「………」 「……ええと」 「つまりね」 「はい」 「私はいつも通りのテオが好きだよ」 「ありがとうございます」 ・ ・ 「ようこそ、ベルベット…ルーム、へ…」 「ヤッホー、テオ!」 「朔さま!? 一瞬何方か判別できませんでした! いえ、それよりも、どうなされたのですか? 顔というか全身がパンクでヘヴィーな感じになっていますが―――まさか宇宙人に攫われて!?」 「うん、テオの反応にはどっから突っ込めばいいかわからないよ。とりあえずヘビメタの知識があるのにどうして宇宙人の仕業とか思うのかな」 「よかった、いつもの朔さまですね」 「………」 「その武器は下ろされるのですか?」 「武器じゃなくてエレキギターっていう楽器だよ。テオは、取り敢えず持ってるもの全部が武器じゃないってことをアップロードしておいて」 「はあ…。あ、化粧を落とすのでしたらこちらを」 「……レースのハンカチ!? ダメダメ! 気持ちは嬉しいけど使えないよっ」 「ですが」 「すぐに落とせるように化粧水とか持ってきてるからっ」 「あの、朔さま。宇宙人の仕業でなければ、どのような理由で奇抜な格好をなされたのかお聞きしても?」 「この前、テオが飽きられないように趣向を凝らしてくれたでしょ? だから私も頑張ってみようかなって! ふふ、テオのびっくりした顔、可愛かったよ」 「―――コホンッ。…朔さまのご記憶に留めておかれるほどでは。いえ、それよりも朔さまにお気を遣わせていたなど、このテオドア、己の至らなさに…」 「ストップ、ストップ! テオがダメとかじゃないよ。テオが頑張ってくれたのが嬉しくて、私もビックリさせたりしたいなってだけだから!」 「そ…なのですか」 「うん、そう。ごめんね。いきなりヘビメタはハードだったね」 「朔さま」 「?」 「私も、いつも通りの朔さまが好きですよ。……あ、いえ、お慕いしております」 「――ふふ、そっか。ありがとう、テオ」 20120720 |