蒼い少年を理解しはじめた、春の日。 | ナノ

(兄妹と順平)


 今年の春にふたりの転校生がやってきた。
 ひとりは順平の目の前で(何処から用意したのか)三段重ねの重箱を昼食にしている大食漢の男子生徒である、深浦了。基本的に何を考えているかもわからない無表情(女の子はクールだと贔屓している)で、愛想はあるのかないのか分からない。四月からクラスメイトから一緒に戦う仲間となって、寮も同じだが順平にはこの少年が何を考えているのかさっぱり分からないままだ。

 基本的にどうでもいいという姿勢。
 ボーッと突っ立ってるかと思えば、ブツブツ呟く。
 暴走したモノレールを直感だけで止める。

「……順平にやる分はないぞ」
「いらねーよ」

 女子に騒がれる要素など皆無。確かに顔は綺麗な部類だろうけど。
 だけれど、そんな深浦に少しだけ親近感が湧く瞬間がある。

「あ、お邪魔しまーす!」
「お、深浦妹じゃん」

 もうひとりの転校生であり、深浦の妹である少女、深浦朔だ。兄とは正反対の生命力いっぱいに「おはよう、伊織くん」と挨拶をしてくれる。愛想も可愛げがある。多分、兄が置いて来た愛想を妹が拾って生まれてきたに違いない。
 深浦は妹を視線だけで確かめるとポンポンと隣の席にある椅子を叩く。

「もー、なんだよ余所余所しいな。ジュンペーでいいって!」
「伊織でいい」
「なんでお前が決めるんだよ!このシスコン!」
「ごめん、伊織くん。でも、そんな親しくもないからいいんじゃないかな」
「…………」

 順平は黙った。外見とかで似てない、似てないと思っているが、たまに発言が、ああ、こいつら兄妹だな、と思う。兄に促された椅子に座った妹は総菜パンをひとつ開けた。パリッとビニルが破ける音がしてコロッケにかけられたソースの匂いがする。

「つかさ、妹ちゃんはそれだけでいいの?」

 コロッケパンひとつ。
 しかも大抵他のパンであろうがその半分しか食べず、残りは兄にあげているくらいだ。

「えーっとね。私、燃費いいんだ」
「ああ、深浦兄は燃費悪そうだもんなあ」

 うんうん、と頷くと「あとでマハガル覚悟しておけよ」という小さな声が聞こえて、ぎくっとする。
 妹は「まはがる? 古典の授業にそんな言葉あったっけ?」と首を傾げた。

 深浦兄は俺達と同じ寮に住んでいて、同じく戦う仲間。
 けれど、深浦妹は違う。女子寮に住む普通の女の子。
 ゆかりから聞いた話では、理事長と美鶴に対して「妹を一切巻き込まない」ことを自分が入る条件にしたとか。無表情でどうでもいいが口癖のこいつは妹が関わると人間味が増すということだけは、順平もようやくだが理解しはじめていた。




20120720