超短編 | ナノ







「ん、んー?」

 ぐるりと顔を藤内に向けた三之助はお盆を持ったまま顔を近付けて、んーと空気を吸った。何だか甘い匂いがする。そう指摘された藤内は、ぐったりした様子でああと頷いた。

「数馬にハチミツ貰ったんだ」
「ハチミツ?」

 何やってんだと見ていた作兵衛も藤内に近づいて匂いを嗅ぐとかすかに甘い匂いがした。

「あ、確かに甘い匂いだな。けど、普通気付かないだろ。普通」

 食堂には色んな食物の匂いで蔓延しているというのにかすかな匂いを見つけるなど普通じゃない。

「いいから席につけよ」
「数馬ー。隣いい?」
「いいよ。っていうか左門は?」
「知らね」

 一方、二人に寄られてうんざりしていた藤内は「まだ匂うのか」と言うと作兵衛はキョトンとした。

「なんだ他にも獣的嗅覚がいたのか? あ、七松先輩?」
「なんでそこで作は俺を見るのかな?」

 三之助は心外そうに眉をしかめて数馬に訊ねる。数馬は、さあと苦笑いで流した。藤内は作兵衛に「違う違う」と手を振ると「孫兵だよ」と答えた。げ、と作兵衛は仰け反ると「何が」と孫兵が現れたものだから作兵衛はうわッ!と驚いた。

「で、出たな蛇野郎ッ!」
「心外だな僕は蛇専門だと思われているのか。いいか、僕の専門は毒虫だ。言うなら“毒虫野郎”だ」
「んなこたあ聞いてねェよ!」

 つか、突っ込むとこはそこかい!とお手本のようなツッコミも入れた作兵衛に孫兵は「お届けものだ」と腕から下げているのを出した。その差し出されたものに誰かが「げっ」と呟いた。

「左門!?」

 転がった級友に作兵衛が駆け寄る。普段の元気な姿から見れば生気なく転がっている。どうした、と身体を揺らす作兵衛に孫兵は答えた。

「ああ、痺れているんだよ」

 曰く食堂へ行くらしいが迷っている左門を縄で縛っていくのは面倒であるために虫で痺れさせた。悪気などない、むしろ名案だろうという孫兵に、いやダメだろう!と内心皆突っ込んだ。

2012/03/18 00:02