「綺麗よ、ねぇ」


あたしの周りをくるくる回って嬉しそうに褒めまくる親友に照れくさそうに笑った。今あたしが着ているのは花嫁衣装であるウェディングドレス。


今日あたしは結婚する


相手?お相手は、




恋哀






「まさかあのサッカー馬鹿の小林くんとあんたが結婚するとは…」


あたしでも分からなかったわ、と咲音はぼやいた。そうお相手はあの小林なんだ。どういう経路で付き合って結婚まで至ったってのは話が長くなるのだけれど今言えることはあたしは彼が大好きだということ。4年前のまだ16歳の子供だったあたしにはまさか想像もつかなかったことだろう


「あたし、あんたは絶対仁王先生だと思ってた」


『あたしも』


あの時、微かな意識で聞いた「ごめん」の言葉で雅治くんはきっとあたしを突き放したんだろう。次の日から普通に接してくる雅治くんを見て『ああ、フラれたんだな』と実感したのに何故か冷静な自分がいて驚いた。分かっていたんだろう、心のどこかで。雅治くんは女としてあたしを見れないこと。分かっていたことなのだけれど子供ながらに理解出来ないこともあって意地を張って辛い思いするならもう恋なんて言ったあたしは本当にどこに行ってしまったんだろうか?


コンコン、とノックの音がして「入っていいかのう」なんて返事も待たずに入ってきた雅治くんに咲音は顔をしかめて「花嫁姿を花婿より先に覗く男なんて信じられませんよ、先生!」なんて軽く雅治くんに攻撃を浴びせつつするりと雅治くんの横を通り抜け出ていった親友に感謝する、気を使ってくれたのだろう。バタンと扉が閉まった途端に部屋の中が静かになるのはお決まりのパターンだから仕方がなくあたしから話す…のだけれど今日は雅治くんから言葉を発した。


「綺麗じゃ…のう」


『雅治くんはすっかりおじさんだよね』


「失礼なやっちゃ」


『………ねぇ、雅治くんこんな良い女もう二度と現れないんだからね』




あたしを逃がしたこと後悔しなさいと言わんばかりに思いきりあっかんべーとしてやったら雅治くんはククッと笑って優しい瞳であたしを見つめた


「おーおー後悔しとる、まさか小林に奪われるとは思わんかった」


あんなサッカー馬鹿に、ねと付け足せば二人して笑った。こういうやり取りもきっと最後になるだろう。だから最後に、と雅治くんに抱き着いた。傍から見ればあたしはなんてはしたない新婦なんだろう、だけど此処にはあたしと雅治くんしかいない。あたしと雅治くんしか知らない


「こら、まだ式挙げてないからって浮気はいかんぜよ」


『ふふっ………ありがとう』


「ん?」


『10年間、お父さんとお母さんの代わりに育ててくれてありがとう』


愛情に溢れてたと言ったら嘘になるけれど、雅治くんは他人のしかも失恋した人の子供にも関わらず彼なりに愛してくれた


「ばーか、お互い様じゃ。お前さんこそ、こんな奴んとこに来てくれてありがとさん」


どれくらい沈黙が続いただろう、それは凄く長いように感じたがほんの数分のことだったように思える ドアの向こうで「新婦の方ご準備は整いましたかー?」と言われ、雅治くんはあたしから身体を離すと「時間じゃ」と囁いた


「目一杯幸せにしてもらいんしゃい」


『言われなくても』













…ねぇ、お母さん
あたしも雅治くんにフラれちゃった。雅治くんたらどんだけ女泣かせなんだろね?だからブーケを人から少し離れたところで見てた雅治くん目掛けて投げつけてやった。




あたしがいなくなったら雅治くん、また料理しなきゃいけないんだよ。洗濯だって洗剤の量間違えたりしないでよね!あたし、心配しちゃうから早く良いお嫁さん貰ってよね!




END

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