気がつけば見慣れた家の白い天井、外を見るとすでに空は暗くてマンションの光がぽつりぽつりと着いていた。





恋哀







「おー起きたんか」


ひょっこりドアから雅治くんが顔を覗かせた。着崩したスーツにエプロン姿の雅治くんの格好からして今帰ってきたのか。持ってきたトレイをローテーブルに置くとあたしの横に座ってあたしのおでこと自身のおでこに手を置いて熱を確かめた


「下がったみたいやのう、さっすがブンちゃんの子」


風邪引いてもばかみたいに元気じゃったからな、なんてくつくつ笑う。それを見てドキッとした。今まで雅治くんの横顔を間近で見てもなんとも思わなかったのに。それに自然とその形の良い唇に目がいってしまう。あの出来事を思い出すたびに穴が合ったら入りたい気分になる。あたしは悪くないのに、あっちがお母さんと間違えてキスしてきたのになんであっちは何も知らなくてあたしだけこんなに意識しなきゃ駄目なの

「元気ないんか?擦りリンゴ食べるか?…まぁ、1日中も寝てたら逆に怠いかもな」


『1日中…』


あたし何がどうなったんだろう?確か小林と数学の勉強してて、それで確か意識が遠くなったんだっけ?じゃあここまでどうやって帰ってこれたんだろう。

「葛城に感謝しときんしゃい、強情な小林を黙らせてここまで運ぶの手伝ってくれたのあいつだからのう」


聞けば小林はあたしを家まで背負って送り届けると申し出てくれたようだが咲音が一蹴してなんとか雅治くんに車に乗せてくれて運んでくれたらしい。に感謝しつつ擦りリンゴを口に運ぶ。擦っただけなのに普通のリンゴより美味しいと思う


「俺の熱がうつったんかのう?」


雅治くんが言った言葉に思わずリンゴを吹き出しそうになった。ああやっぱり知らないんだよね…絶対、確実にあんたから貰ったんだよ!ばかっ!


『こっ…小林に悪いことしちゃったな…』


勉強してていきなり倒れるなんてあとでごめんってメールしとこう


「そりゃ告白の返事も聞かずに倒れられたら困『ちょっと待って』


なんで雅治くんが知ってるの…まさか、聞かれてた?雅治くんはニマニマしてその大きな手を口に当てて「ひゅー若いのう」とかおもちゃを発見したみたいに面白がってるけど流石にイライラした。雅治くんがあたしにキスしたせいで風邪ひいた上にこんなに悩んでるのに…!おまけに「付き合うんか?ん?ん?お似合いじゃなか?」とか小突いてくるし、若い頃は詐欺師なんて異名がついてたくせにあたしの気持ちなんて全く分かってない!!


『いい加減にしてよ!』


堪忍袋の尾がキレたあたしはもう止められない。雅治くんは案の定口をポカンと空けて見ている、当たり前だ。人生の中できっと本気であたしがキレたのは今だから。


『雅治くんのばかっ、とんちんかん!!!お母さんの名前を呼んであたしにキスなんかするな!あたしを見てお母さんを思い出して悲しい顔するなら最初から引き取らないでよ、あたし雅治くんが好きなんだから!小林とお似合いなんて…言わないでよ……』


言ってることが目茶苦茶だけど熱のせいだってことにしとく。だって頭痛いし、頭回んないし、掠れて雅治くんの顔見えないし。使命を果たしたようにあたしの身体は力が抜けてそのまま後ろに倒れてベッドのスプリングが一回跳ねた。




「ごめん」


そう言って雅治くんの気配が消えてドアが閉まる音が聞こえた気がした


待ってよ、ねぇ雅治くん

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テーマ「人外ファンタジー」
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