あたしにとっての雅治くんは同居人兼保護者おっさんで、恋愛感情なんてあるはずがないと思ってた。いや、もしもあったとしても16歳と33歳。歳が17歳も離れてる訳だし。あたしは人から大人びていると言われているが所詮はそれは精神のことで外見は年相応、あっちは相手になんかしないだろう






…ましてや、大切な幼なじみの子供なんかに







恋哀







ってあたしはなんでこんなこと考えてんだろ、そっと横目で雅治くんを盗み見ればあたしが入れたコーヒーを飲んでいた。雅治くんはブラウン管の中のお笑いコンビに視線が定まっていて笑いもせず、ただ、見続けている。あたしが視線を送ってもこちらを見るそぶりは全く無くてむしろ横顔が何も聞くなと言っているようで何も出来ずにいた…だけどあたしは気が長い方ではない、お父さん譲りの短気だ。あたしは手元にあったテレビのリモコンを手にとるとテレビに向かって電源ボタンを押してやった。その途端パチッと画面が消えて当然部屋の中は静まりかえる。一変して気まずい沈黙、雅治くんはテレビが消えても画面をじっと見続けたまま何も、しない。これじゃあらちがあかないからあたしは雅治くんの横に座った


『雅治くん、教えて』


「…ん?」


『雅治くんがその…お父さんとお母さんを』


「……ああ」


雅治くんの唇は金魚のように開いては閉じ開いては閉じていたけれどやがてぽつりぽつりと話し始めた。






「…十年前にな、うちのおやじが倒れてのう、姉貴も弟もすでに家庭を持っとったからそう簡単に帰れんくて呼び出されたのが俺だったんじゃ」


『…うん』


「やけど困ったことに盲腸のため入院しとった」


雅治くん病気したんだ、あたしがきっと不安げな顔したんだろう。雅治くんはふっと微笑んで「大丈夫じゃ、悪化したら厄介もんやけんど手術したら直るから」と言って安心させてくれた。だって雅治くんが死んじゃたらあたしは…………そう考えて震え上がった、よそう縁起でもないこと。それに雅治くんは不健康そうに見えてもかなり丈夫なのだ。10年間一緒に住んでるけど病気したことないし。


「んでな、どっかでおやじの事を聞き付けたお前さんの母さんがおやじの様子を見に行くって言い出したんじゃ。仁王くんのお父さんは私のお父さんみたいなもんだ、とかゆうて」


心配症でお人よしのお母さんのことだ、大体想像はつく。


「それがいけんかった…無理矢理でも止めときゃ良かった。その日実家、あ…その時はおやじの転勤続けで新潟の方に家があったんじゃが神奈川から遠いわ、雪凄いし天気最悪だわで何度もいいからやめとけって言ったけど行くの一点張りでしまいにはブン太まで行く言い出しよった…あいつらどんだけ馬鹿だってその時は思った」

二人とも本当に優しくて他人の俺のことなんて放っておけばいいのに、と雅治くんは自嘲気味に笑う。だけどあたしはお父さんとお母さんはきっと雅治くんが仲間で大切な人だからそこまでやったんだと思う


「けど…馬鹿は俺の方じゃ。悪天候だって知ってたのに、もちろん二人は雪慣れなんかしとらんかったのだって知っとったのに」


雅治くんは泣いていた、俯き加減だから表情は分からないけれどそのしるしにカーペットに雫がぽたりとこぼれ落ちたから。

「すまん、…ブン太…なまえ………」


『……』


「俺を怨んでもええ」



なんだか消えてしまいそうな雅治を見ていたくなくて言い終わる前に思わず存在を確認するように抱きしめていた。だけどいつめより熱を持った身体に、違和感を覚えた。雅治くんの身体は熱っぽくて気力を失ったようにぐったりして目を閉じて呼吸が荒い。それに汗も出てきたようだ。


『まさはるくん』


軽く揺さぶってもただしんどそうに息を吐くだけ。あたしは当然焦った。だって雅治くんが熱出したとしてもこんなしんどそうにしている姿なんて見たことがなくて。



あたしまで泣きそうになった






「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -