アイツはどこが悪いのだろう? 車椅子だって必要ないほどにピンピンしているし勝手にロビーにある売店へフラフラ行ってしまうこともある。だから本当に病気なのだろうか、と疑ってしまう。アイツと会ってもう2年経つけれど病気したことなんて一度もなかった (―――2年間、か) たった2年なのにアイツとの思い出ひとつひとつが大切で。 俺はアイツ、なまえが好きだ。ただし悲しい一方通行な訳だが。笑った顔も“隆也”って呼ぶあの声もドジだけれど何事も一生懸命やるアイツが好き。 西浦の硬式野球部が出来てからの初の優勝したときにアイツは泣いて笑って、一番喜んでた。 ――…多分俺はもうずっと前からなまえに惚れてた。 好きだって自覚してからも俺は何も伝えてないし行動さえしてない。心のどこかではこの関係が心地よいもの、いや関係が崩れるのを恐れていたから。 あれから一年、また夏がやってきた。だけどなまえはいない夏。 「今年は一緒に行けねェんだな…」 自分でも驚くほどに沈んだ声が出ていた。なまえはきょとんとした顔をしたと思えば、いきなりベシッと俺の背中を叩いた。 正直、かなり痛い。 『阿呆の隆也、回れ右!』 ……は? 『さっさとグラウンド行ってモモカンのケツバット食らって来い!』 ケツバット…… 思い出されるのは三橋が入って早々やられていた、あのシーン……あれだけは勘弁してもらいたい。 『ケツバット嫌ならさ、そんな情けない顔しないでよ。廉は可愛いけどさ隆也はキモイ。』 「おまっ!」 キモイって、いくらなんでもヒドイだろ!人が心配してやってんのに。 そう反論しようとしたらトンッとなまえの人差し指が俺の眉間を突いた。 『私、退院祝いの希望は甲子園出場の切符なのよ。』 不敵な笑みを浮かべてグググッと眉間を押してくる。 あー…くっそ! 「待ってろ!一年前以上に泣かしてやるから覚悟しとけ!」 いわゆる“負け犬の遠吠え”。 赤くなった顔を隠すため俺は踵を返すと出口を目指す。後ろのイライラする笑い声は聞かないフリをして。 だから気づかなかった。 なまえが泣いていたなんて。 最後の夏は始まっていた。 (……あーあ…私も行きたかった、なぁ………) |