『…え、仁王先生帰ったんですか』


「おう、凄い雨だからって引き止めたんだけどな…ふらふら出ていきやがった」


相変わらず分かんねぇ奴だよ、とぼやいた宍戸先生は中学生、高校生時代はテニス部で雅治くんのことを知っていたようだ。宍戸先生は雅治くんと正反対で熱血漢というか面倒見が良いっいうかどちらかというと男子の方にウケが良い。俺は一生あんな風にはなれん、とか雅治くんが言ってた。数学のワークなら机に置いとくぜ?と右手に持っていたワークを視線を見ながら親切に言ってくれたのだけれどあたしは首を横に振って直接渡します、ありがとうございましたとその場を後にした


ワークは雅治くんに傘を届ける口実に過ぎない。あたしと雅治くんが同居してるのは学校じゃ好敵手のなまえしか知らないためだ。自由過ぎる雅治くんに内心溜息をついて再び来た道を戻っていった





恋哀







『もう、どこ!!?』


長靴を履いてきて本当に良かった。地面が水で溜まっていてスニーカーとかで外に着ていたら間違いなく靴の中に浸水していただろう


雅治くんがよく行く学校付近の喫茶店にもレンタルビデオ屋さんにも本屋にもいなかった
…もしかしてすれ違った?そう考えたけれどそれだったらあたしを呼び出した意味がないし、メールが来るはずだ。
商店街の方まで来てしまったけれど雅治くんはこんなとここないし…と思って戻ろうとしたら道の真ん中で突っ立ってる男性らしき体格の人が見えた。見えにくいけれど髪は銀髪、ちょっと長い髪を後ろで一つに縛ってる。確信した、あれは雅治くんだ。









『雅治く、』







「………×××」










整えられた髪も割と値段が張ったと言っていたスーツもびちょ濡れになっているのにも構わず空虚な空をただ見つめているだけの雅治くんに何故か魅せられたようにあたしは息をのんだ
髪が顔に張り付いて表情は分からないけれどあたしにはなんだか雅治くんが泣いているように見えた。けれど近寄って傘に入れてあげることもあたしには出来そうにない。今雅治くんが求めてるのはあたしじゃない、雅治くんが紡いだ人物しかいないのだろう。今はもういない人物






お母さん、だ






なんで…なんでなんでなんで、お母さんの名をそんなに切なげに呼ぶの?だってお母さんをフったのは雅治くんの方で、それからお母さんはお父さんと出会って二人は結ばれて―…なにこれ、なんで今更…?


『雅治くんっ!!!』


気づけば叫んでいた。それは悲鳴にも近くて、だけどそんなこと気にしてる余裕もなくてあたしはそのに佇んでいる雅治くんに駆け寄った


『雅治くん、何してるの?早く帰らなきゃ風邪ひいちゃう』


「今も後悔しとる、なんであの時あいつらを…」


ぼやいてる仁王くんを傘の中に入れて腕を掴んだけれど全くこちらに視線を向けない


『雅治くん……?』


















「丸井とあいつは俺が殺したようなもんじゃ…」








そう泣きそうな声で呟いた雅治くんは今にも雨に消されてしまいそうだった





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