穏やかな時間、窓から差し込んでくる橙。
夕焼けのスポットライトに照らされたかのように無機質な空間の中でただ一つ、鮮やかに輝いているのはチームメイトと撮った写真。

少し緊張気味に花井が優勝旗を持ちニンマリと笑った泉は花井を肘で突いていて廉と水谷と田島は後ろでジャンケンをしていて巣山は3人に前を向かせようと頑張っていて…西広と栄口と沖はそのやりとりを見て笑い、千代ちゃんと私は野球部の華だ、ってことで図々しくも真ん中にいて(千代ちゃんだけなら良いと思うけど)

隆也は…呆れた顔をしながらも笑っていた。



まるであの頃は遠い世界のことのように。
だけど私が知らないところで確実に彼らの時間は進んでいる。その時間の中に私がいなくなった。

ただ、それだけ。













ヴゥーヴー…



ブンとサイドテーブルで震える携帯の音にビクッとなってしまった。
画面を確認すると“メール1件”と表示されていた。
ボタンを押して内容を確認する


――今からみんなで押しかけっから。


本文には短い言葉。
だけど差出人は大好きな人。阿部隆也の名前だけで私をドキドキさせるし、嬉しくさせる。
嬉しくて泣きそうになるのを我慢して目をギュッと閉じる。
だってもうすぐみんな来てくれる。泣かない、泣かない。






コンコン





リズミカルなノックの音がしたと思ったら返事をする前にドアが開放されドタドタと一番に息を切らした廉が入ってきた。一番乗りは田島だと思ってたから顔を真っ赤にしてうっすら汗をかいて走ってきてくれた廉を見て胸が熱くなってくる。
廉は私を見て口をパクパクさせて動くべきか動かないべきか迷っていた。



『ははっ、廉。元気だった』


廉はぶわっと両目に涙を貯めると突進するようになまえに抱き着いた。

「…お、れ!!こわか…った!」

『うん。』

「なまえがっ!!死んじゃっ………」

『大丈夫、大丈夫。』

ポンポンと廉の頭をあやすように撫でる。

「あーっ!三橋、ずりぃ!!」

「コラ!田島、三橋も!病院では走んな!叫ぶな!」

ニカッといつもの笑みを浮かべてフルーツの入ったバスケットを持った田島と少し息を切らし田島を必死に追っかけてきたらしい何冊かの分厚い本を持った花井。
廉はそんな二人に気がつくとパッと離れた。別に良いのになぁ。

「てか花井も走ってんじゃん。」

と背後から現れた泉。花井は痛いところをつかれたようで「う…」と口ごもる。

「元気だった?」

「久しぶりな感じがするなぁ」
「毎日会ってたからな。」

「体調悪くない?大丈夫ー?」
「ノート、写したから良かったら使ってね。」

「良かった、元気そうだね」

栄口、沖、巣山、水谷、西広、千代ちゃんの順にぞろぞろと入ってきた。

あ、やばい泣きそう。






「みょうじ!?ど、どーした!?」

「あー!?花井が泣かした!?」

「ば、違っ!」

あはは…泣かないって決めたのにな、決めた早々泣いてんじゃん、あたし。

暖かいものが心に染み渡る。







「バーカ、ぶっさいくな顔になってんぞ。」


あー、もう馬鹿。
涙でぼやけた視界、見えなくも分かる少し捻くれた声。
ぽんっと頭に置かれた手の温かさにまた涙が溢れ出る。

おっかしいなぁ…私こんな涙もろいはずじゃないのになぁ…
ほら、布団が涙で濡れてる。きっと隆也が言う通り私の顔最悪だろうなぁ…………

あー、好きな人に間近でこんな顔見られるなんて女の子失格だよ。















…ねぇ、神様。

もしも聞いてるなら教えて下さい。

なんで、私なんですか?

隆也たちと会うまでは死ぬなんて怖くない、って思ってた。
これが私の運命だったのなら抗わず全てを受け入れよう、って。
だってどうしようも無いから。そりゃまだまだ生きていつか見たり聞いたりしたいってものもあったけれど…
お母さんの徐々にやつれていく顔、一生懸命に作る笑顔。
こんなことさせてまで、生にしがみつく私なんてワガママな子に他ならないのだから。

ねぇ…神様、

私はワガママな子でした。

隆也に愛されたい、みんながいるグラウンドに戻りたい、

生きたい。









神様、私は悪い子です。
だって私はこれほど貴方のことが恨んだことはない、から。