あの後痺れを切らした丸井先輩と申し訳そうな仁王先輩が後ろからやってきて流れのままケーキ屋さんに行った けれど時間が経つにつれて恥ずかしくなってきて席も仁王先輩の横、丸井先輩の前という切原から一番離れた位置を獲得した 目を会わすどころか顔も見れなくてきっと切原は不満だったと思う
それから数日経った訳だけれどあれから一切と言って良いほど切原に関わってない


「…で、あんた切原と付き合うようになったの?」


和音は爪やすりで綺麗に爪を磨いていく 上下に動かす度に光沢が出てくるのを私はぼんやりとそれを眺めている


『ううん』


「はあぁ!?でも好きだって言われた上に」


キス、されたんでしょう?そう人差し指を指して言う和音は何だか色っぽくて見てるこっちが照れる


『だって好きだとしても付き合うとは限らないしこっちの勘違いとかだったら恥ずかし過ぎるし』


はぁ?お前夢でも見てたんじゃねーの、きしょ!とか言われたらもう私はきっともう立ち直れない


「どんだけネガティブなの…」

切原かわいそーまあ自業自得かもだけどーとかまた和音は悠長に磨かれた爪の上にコーラルピンクのマニキュアを丁寧に塗っていく


『うあー…もう、どうしよう』

切原に会いたいんだけど会いたくない 触れたいんだけど触れたくない 矛盾してるのはきっと拒絶されるのが怖いから
ってかこの頃ずっと切原のことしか考えてない気がする…私はいつの間にこんなに好きになったんだろう







「みょうじさん?」


『う』


「…なまえ、呼ばれてるよ」


「うーあ、誰に…」




のっそり顔を上げ目の前にいた人物に固まってしまった。和音よりよっぽど濃い化粧で小悪魔系 紅い口紅と紅いマニキュアがやけに目につくこのお方は、


「ちょっと屋上来てくれるかなぁ?」


『好敵手のみょうじさ、ん』


悪魔の彼女である好敵手のみょうじさんが天使の笑顔を張り付けそこにいた









*








「赤也に手ェ出さないで、って言ったよね?」

『…はい』


屋上に呼び出されるのは悪魔に一回、小悪魔に二回目だ(これは何かの予兆で私は将来いや死後地獄に堕ちるってことなんだろうか)てかなんで私こんな立場弱いんだろ


「赤也もこんな子のどこが良いのよ、並だしまな板だし…」


『あのう…Cぐらいあるんですけど、』


まな板に思われてるなんてそこは心外だからちゃんと訂正したらカッと大きく目が開かれ「そんなこと知らないわよ!」と火に油を注いでしまったようだ
好敵手のみょうじさんは勢いよく上に手を上げそのまま私に落下させた(あ、ぶたれるんだ これは痛い)何故か避けもせず冷静にそう思える自分が謎だった


パシッと気持ちいい音が響いたうわー痛くないし


「何してんの?」


「あ、赤也…っ」


「あれっきりでみょうじにちょっかい出すな、って言ったよな?」

「でも…あたしは」


普段では想像もつかない弱気で泣きそうな好敵手のみょうじさんはしばらく切原を見つめたあと耐え切れなかったのかそのまま去ってしまった あの様子だと好敵手のみょうじさんはほんとうに切原のことが好きだったの…?


「なぁ怪我してねーよな?」


『うん、私は大丈夫…だけど切原の顔腫れてる』


そっと無意識のうちに切原の頬に触れればそこは熱に帯びていてあつい あれれ私の手まで熱くなってきた パッと手を話そうと手首を軽く掴まれた


「なぁ、なんで避けてたの?」

『…好敵手のみょうじさんのこともあったし』


切原は好敵手のみょうじさんとまだ付き合ってる、んだよね?


「ちなみに言っとくと俺好敵手のみょうじと付き合ってねぇから」


『なん、』


「…放課後あれっきりでお前に手ェ出さねーって言ったからヤッたら何故か付き合ってるって噂が流れた」

面倒くさそうにそのワカメを手でグシャグシャする切原を今ほど殴ってやりたいと思ったことはない そんな私を嘲笑うかのように悪魔の笑みを浮かべてグッと私を引き寄せた(近いってば、もう)


「あんたの方がひどいよ?丸井先輩に木林に…おまけに仁王先輩」


『なんで仁王先輩なの』


「ケーキ食いに行った時仁王先輩にべったりだったじゃん」


いやあれは切原から逃げるためで…


「ねぇ、あんたほんとに俺のこと好きなの」


『…すきだよ』


「んじゃあキスしてよ」


『はぁ?無理!!』


切原から離れようとすれば腰をしっかり掴まれて固定されて逃げられない…しまった


「早く」


『………』


そうだ、軽くやってしまえば良い 軽く軽く…かる、く


『ん!!?』


「遅いし」


ながいながいながい!息持たないし




僕がきみを、想う気持ち


(離してよ!馬鹿切原!!)


(って!離すか、やっと手に入れたんだから)




End