好き、だなんて17年の人生で初めて言われたわけで。嫌いって言ってる相手に好きなんて言うなんて答えは分かりきってるのに切原は何がしたいんだろう?って思っていたら冗談らしかったのだ。そうだよね、切原みたいな奴が私みたいなのを好きになるはずなんて有り得ないし好かれても困るだけだし。派手で小悪魔で人気のある好敵手のなまえさんと付き合えば良いと思う(ほら悪魔と小悪魔で良いカップルじゃんか)一件落着のはずなんだけど…

、でも心残りといえば私が最後に切原に言い放った言葉の時に見せた切原の表情…やっぱり傷つくよね


「…よく後悔するね」


呑気にポッキーを人差し指と親指で挟んで相変わらず携帯をいじっている和音に思わずムスッとしてしまう


『私、別に後悔なんかしてないよ。切原が嫌いなのは事実だし』

「じゃあもうそれで終わり、で良いでしょ?」


『うん、そうだよ。そうだけど…なんか胸に突っ掛かるっていうか』


そこまで言うと和音は携帯の画面から視線を逸らし私をジッと見て言った


「それさぁ、口では嫌いだなんて言ってるけど結構アンタのなかで切原の存在が大きくなってることじゃないの?」


なるほどって思った。だけど何故か認めたくなかった、私が切原を気になるなんて認めてしまったらなんだか切原にしてやられてしまったようで。タイミング良くなったチャイムの音だけが明るい陽気なもので鳴り終わった後の余韻が残った静けさに堪えられなかったのか#和音がポツリ、と「帰ろっか」と言ったから私は一回頷いた。散らばった消しかすを払ってノートを鞄に入れて肩に背負っていざ帰ろうとすれば和音は「あ」と何かを思い出したようにスカートのポケットを探る「ごめん、あたし体育館に携帯忘れた」


『なんで体育館?』


「体育の時間に体育館の更衣室で着替えてる時に忘れたの。だから取りにいってい?」


あたしの馬鹿ー携帯忘れるとか、ロックしてたっけ?とか一人騒いでる和音をよそに私は切原のことばかりで。あんな最低なワカメ男好きになんか…ならない、し。だから私はこの後に見ることになる光景で自分の気持ちがはっきりするとはまだ知るはずもない。この時はただ悶々と悩んでいて和音が携帯との再開を果たすのをただ眺めていた。


「あたしの携帯!良かった…ロックかけてた」


携帯を握りしめて小躍りしていた和音だけれど突然動きがピタリと止まった


『和音どした』


「しっ!」


人差し指を口にあてて私の腕を掴むといきなり屈んだわけだから嫌な音がした(今グキッて!)

「体育館の裏から何か切原の声が!」


唐突に出された切原と言う明らかに反応してしまった自分が情けない


『き、気のせいだよ。大体なんで体育館裏…』


テニス部はグラウンドな訳だし今ごろコートで練習してるはずだしこんなとこにいるはずない

「忘れたの?噂のこと」

和音は形の良い口をニヤリととあげると体育館裏に続く道を屈みながら進んでいく
…噂のこと、切原が遊んでるってこと………?私はキッと和音の背中を睨むと後ろから同じようにして追いかける


「あら、ついてくるんだ?やっぱ気になる?」


『私は好奇心旺盛なわけだし』

「素直じゃないなあ」


フフッと大人っぽく笑う和音には敵わないと思う
スタイルも断然負けてて私は…その、まだ発展途上な訳でって何言ってんだ自分(言ってて悲しくなってくる)あ、でも17でこの体型はヤバイかなあなんてくだらないことを考えていると徐々に聴こえてくる女の人の喘ぎ声に身体が強張る


「噂、本当みたいね」


和音が普段と変わらずあまりに平然と言ってしまうものだから私は内心焦ってしまった

『あ、いやでも…切原とは限らないし』


「今明らか切原独特の声したんですけど」


呆れた様子でチラリと私を一瞥し内側の壁に寄って中をしばらく見ていたが唐突に帰ろうと言い出した

『…私も切原かどうか確かめたいし見る』


「だめ、だってあんた切原のこと好きでしょ?」

『…嫌「嘘、じゃなかったら普段何事にも無関心なアンタがこんなにもひとつのことに執着することないもの」

和音はフッと呼吸を吸い込むとそれを吐き出すように私に言い切った



「アンタは切原赤也が好きなのよ」









『嘘ッ!』



認めたくない余り思わず私は勢い余って立ち上がってしまった。和音は慌てて私の腕を掴もうとしたけれどすでに時遅し。女の子に覆いかぶさった上半身何も身につけていない切原と思いきり視線がぶつかってしまった















(切原が何か言いかけた気がするけど、)


(私には関係ない)