《知るか、つか時間帯考えろ》

『え、だってまだ11時…』


《こっちは部活で疲れてんだ》

電話はブツッと音がして切れたなにさ久しぶりの幼なじみの電話だって言うのに素っ気ないなぁ、海堂のヤツ!ボスッとベッドに身を預けると軽く跳ねて着地した。駄目だ放課後のことが頭から離れない 結局あのまま唖然とする切原を置いてさっさと家に帰ったのだ。明日やっぱり何かされるのかな…い、嫌がらせとか…思い付くのは王道なものばかりなのだけど。う〜っと呻いていると下の階から「なまえ〜ローソンで牛乳買ってきてー!」なんて。ちょ、こんな夜に娘を一人牛乳のために出歩かせるなんて何考えてんの!?もしかしたら玄関で切原が待ち伏せしてて「アンタ、よくも二度も叩いてくれたよね」とかあるかもしれないのに!…そんな諸事情を知らない母さんは私をグイグイ押して「大丈夫よ、お母さんはか弱いけどアンタは強いもの!☆」なんて…納得いかないけれど私はしぶしぶジャージのポケットに携帯と護身用に定規を押し込んで玄関のドアを開けた(だってカッターなんて危ないし!もしも店先で防犯装置に引っ掛かってピーピー鳴ったら嫌だし、それに定規って結構凶器になるし)


所々ボウッと電灯がついているもののローソンまでの道のり約7分、本当に切原がぬっと現れそうで走ってローソンまで行った頃には7分も掛からず5分で行けた ローソンの店の明るさってなんでこんなに安心感があるんだろう。ほっと一安心した矢先電話ボックスの影に隠れるようにして変な中年のオジサンが雑誌を読んでいたのは気味が悪かったけれど入ってしまえばこっちのもの。

ドアに手をかけアイスもついでに買って帰ろう、なーんて呑気なことを考えてピロンピロンとローソン独特のお迎えコールを受け私は早々にドリンクコーナーに向かう、のだが…その途中で素通る雑誌コーナーでまさか切原赤也がジャンプを立ち読みしているなんて1分前の私はまさか微塵も思わなかっただろう、ワカメ頭の幾分身長が高い制服じゃなくてパーカー姿の切原に気づかれないよう別のルートから行こうとしたのだがその前にあちらが振り返った

「『あ』」



さて牛乳、牛乳と奥に向かおうとすると「みょうじじゃん」なんて笑いながら雑誌を片手に右手をヒラヒラ振っているけれど無視。すると切原は私の後ろについて来た



「無視すんなって、傷つくだろ」


『…』

もちろん全く傷ついた様子もない、むしろ焦った私を面白がってるようで。私はさっさと目的のもの、牛乳と抹茶ミルクのアイスを見つけ足早にレジに向かうのだけどやっぱり切原はついてきて後ろで何か言ってる(私はとことん無視)ドンッとカウンターに品物を置いて私は嫌味のように深い溜息をついて財布を取り出そうとジャージのポケットを探る……のだけれど


(………?)


探っても携帯の冷たい感触と定規の先の尖った感触しかない。定員さんは素早く品物のバーコードを読みとっていき追い撃ちをかけるように「ポイントカードはありますか?」だなんて
やばい後ろ詰まってる…今更財布ありませんだなんて…なんて迷惑な客なんだ!


「450円になります」


例えば誰でも良いから500円落としてないかなぁ…!もちろんそんなことがあるはずもなく私がしどろもどろしていると代金置きに500円が置かれた。置いた奴は誰かなんて聞かなくても分かる「財布忘れるとかだっせぇー」掌で口を抑え笑いを堪えながらジャンプをカウンターに置く(あ、その刊まだ買ってない!)
そのままビニール袋を引っつかんて帰ってしまいたかったが「ちゃんと待っとけよ」なんて言われた。もちろん450円を払ってくれた切原に今の私が逆らうことが出来るはずもなく仕方なく切原が買い終わるのを待って、ふっと外を見ればやっぱり着た時もいた変な中年のオジサンがいてそれどころか目があってしまい、ニマリと笑われた瞬間ゾッと鳥肌が立ってしまう。

「お待たせーでもねぇか、ってどうした?」


『なんでもない、早く出よう』

私は切原を無視するのも忘れて足早に外に出る。あのオジサンは何か絶対危険だと思う。こういう時に限って人間ってしばらくしたら忘れてしまうようなことばかり思いだす、誘拐、殺人、卑猥…ぐるぐると私の頭を巡る


「つーか財布忘れて何しにきたんだよ」

後ろから呑気に話しかける切原とは反対に私は当然焦っているわけで。


『牛乳と抹茶ミルク買いにきた』

返答がまさか返ってくるとは思わなかったのか後ろにいるから表情は分からないがいきなり黙って私の手を握る


『な…っ』


「…もう11時なんだけど」

切原の顔を見るもただ夜空をぼんやり見ているようで少し怒っているような、そんな感じで私は手を振り払うのも忘れて切原を二度も見てしまった


『…母さんが牛乳買ってきてって』


「手ぶら?」


『ううん…携帯と、』


「と?」


『いや何でもな「何?」


『護身用に…定規』そこまで聞いて切原は堪えられないといわんばかりに腹を抱えて笑い出した


『ちょ…なんで笑うの』


だって定規とか!定規とか!!んで財布忘れるとか!とさらにツボに入ったようでゲラゲラ笑うのを見たらなんだか私もつられて笑えた




(何か、切原の笑った顔)
好きだな、とか思った自分に焦り何かが冷めた


『明日お金返すから』とそれだけ言い残してさっさと帰ろうと繋がれていた手から逃れようとしたのだが今までとは比にならないほどの力で引っ張られ「送ってやるよ、それとなこんな夜遅くに一人で出歩くなよ?」なんてまだ半笑いの顔で言われても

『別に良いって』


「お前可愛げねーの」


『可愛げもくそもないから手離してよ』


「嫌」


『……あのさぁ、なんで私に構うわけ?』


切原赤也の存在を今日知ったばかりなのになんで手まで繋いでんの、私。なんで冷めて見ていた切原の笑顔にドキッとしたの?今日一日でなんでこんなことになってるの?切原赤也、要注意人物でしょう?##name_6##さんにも忠告されたんでしょう?冷たく突っぱねてやれば切原は急に真面目な顔になって言い放った




「だって俺お前のこと好きだし」















(所詮噂だと思ったのに)



(私は切原赤也のことなんて、嫌い、だし)