「おめでとう、お前ら!やったな!やったな!!」 浜田が泣き叫ぶ。 花井を先頭に俺らは観客席に座る応援してくれた人や応援団に脱帽をして感謝の言葉を力一杯叫ぶ。 「ありがとうございましたっ!!!」 熱気と歓喜の声が会場を包み込んだ。 「っと、」 靴の紐を結び直そうとしたときプツンと紐が切れていたことに気づいた。俺は迷信とか信じる方では無いけれどやっぱり気分良いものでは無い。 「うっわ、不吉だな!」 花井が俺の靴を見て少し引いているようだが、この運動靴は気に入ったから3年ははいたんじゃないだろうか?年季も入っているし、そろそろ買い替えようか。とりあえず残った紐で無理矢理結んで自転車のチェーンを外すと自転車に跨がった。 「阿部、みょうじんとこ行くの?」 「おー報告して泣かしてやるつもり。」 なんてニヤリと笑うと栄口もヘラヘラ笑った。 「あー感動して泣いちゃうかもね、しのーかも泣いてたよ。」 見ると篠岡は真っ赤になった目をタオルで冷やしていた。 目腫れる程泣いたのか。そういえば去年もこういう光景を見たな……去年はなまえが大泣きして、篠岡がそれを泣きながら慰めて。そのあと暴走(噴水に飛び込もうとしたり)しだしたなまえを野球部全員で止めたっけな。 一番巻き込まれてたのは三橋で言われるがままについて行って最終的には近くの学校に忍び込んでプールに飛び込んで…二人びしょ濡れになって帰ってきたのを花井と俺で説教して…去年のことなのに鮮明に思いだせる。 「お前ら馬鹿だろっ!とくになまえ!!三橋を巻き込むな!」 三橋は相変わらずきょどっていて俺が大声出すたびに肩が震えて。花井は横で宥めているけれど俺の怒りは収まることはなくて、「ごめん、な…さ、い」と素直に謝った三橋とは反対になまえの口を膨らましてぶーたれるだけの態度にさらにイライラ。 『いーじゃんか、ちょっとぐらい。ケチ!アホ!うんこたれ!』 「生意気言うのはこの口か?」 ぐに〜っと両頬を引っ張ると伸びる伸びる。うんこたれってなんだよ、馬鹿。 なまえは涙目で俺の両頬をぐにっと引っ張り返してきた。やられてみると地味に痛い。(後ろで水谷が笑っていた。覚えてろよ、クソレ!) 『だってさ、勝ったんだよ?私たちの人生の中でおっきな出来事だよ!私たちがおじいちゃん、おばあちゃんになっても絶対忘れない。そいでね、私と廉がプールに飛び込んだことも一緒に思い出すと思うの。あぁアイツらプール飛び込んで花井と阿部に怒られてたなぁって。』 「それで?」 『ええっと、つまり…私は、みんなと一つ一つがおっきな思い出が欲しいのね。優勝した思い出だけじゃなくて…』 「それでプールに飛び込みか。」 『うん、これは衝撃的でしょ。…………まぁ半分以上は単に暴れたかっただけだけど。』 Vサインを出すなまえに正直呆れた、けれど眉間にシワが寄っていたのが自然と解れていって思わず吹き出し笑った。 さて、今年はどんな反応をするだろう?病室の窓から飛び降りたりして。 そしたら俺はそれを止めて言ってやろうか? “お前が好きだ”って。 夏は眩しい。 (このとき俺は、ただただ幸せだった。) |