何故に祈り、何故に願う



6桁の規則的に並んだ数字を何回も何回も確認して、大きく張り出された掲示板を見落とさんように、慎重に見ていく。


(310356…310357……310361……)


俺は深く深呼吸して、もう一度自分の受験票に記された数字を確認する。310362、俺の受験番号や。ぎゅっと目をつむって受験票を挟んで、拝んだ。この大学入れたら、俺、ほんまに頑張るから…神様!仏様!浪花の神様!!!

(ありますようにっ!)


意を決して掲示板を見る。





「…………っ…!」





310362…………あった…何回も何回も掲示板と受験票を見比べる。夢やない、ちゃんと、ある…!




俺はこの時人生でとてつもないものを得た気がした。努力はほんまに実るんやって充分に実感した瞬間やった。最後まで、担任に渋い顔されたし、自暴自棄になった時期もあった。周りの奴らにも当たってしもたことなんて何回もある。


俺を応援してくれてた、友達や家族に一人ずつ電話で報告していく。「俺、受かった!」と抑えられん興奮じみた声で言うと電話の向こうにおる奴らは、「おめでとう!」「さすが、頑張った甲斐があったな!よう頑張った!」とか同じく上ずった声で祝福してくれる。やばい、嬉しくて泣きそうや。






『けんっやあーーー!』



、この声は…もしやと思って後ろを振り向くと案の定、予想した通り、にこにこ笑ったなまえが自転車に乗ってぶんぶんと手を振っていた。負けんくらい大きく手を振り返して、なまえの名前を呼ぶ。思いっきり声出すとめちゃ気持ちいい。受験終わった直後やから、尚更。


「自転車で迎えにきてくれたんかー?」


『うん!だから早く帰ろうっ!!』


ダッシュでなまえの元に行くと頭、めちゃ撫で回された。普段なら怒るところやけど、『よく頑張った!』って自分のことみたいに喜ぶなまえに俺も何も言えず、ただ照れ臭かった。


俺が自転車のサドルに跨がるとなまえは荷台に座って、ゆっくり自転車は動き出す。
ゆっくりなんて言葉、浪花のスピードスターには似合わんけど、なんとなくゆっくり漕いで、なまえと話したい気分やった。

『謙也、よく頑張ったよねー』

「おん、ほんまにめちゃ嬉しい…」


未だ夢やないかと疑ってまう。4月にあの憧れた大学に行くんやと思ったら、胸が弾んだ。そういえば、なまえも俺と同じ大学やっけ。流石に学科はちゃうけど、幼小中高大と一緒ってなるとなんか、


「もうあれよな。俺らどんだけ腐れ縁なん?みたいな。」


『あははは!言えてる!』


家が隣やから、小さい頃からほんまずっと一緒やった。年齢を重ねるごとに異性を意識し始めて、疎遠になっていく幼なじみって多いけど、俺らは逆やった。むしろ、成長していくにつれて仲良くなってんねんから。


「ここまできたら、大人になってもしわしわのおじいちゃんおばあちゃんになっても、仲良くおれたらええよな!そしたら、ほら、前言うてた…」



……何やっけ?



『ハレー彗星?』


「それそれ!一緒に見にいこうな!」


『51年後かぁ、69歳……謙也、よぼよぼだろうなぁ…二人とも元気だといいねー』


「ちょ、お前不吉なこと言うなや!元気に決まってるやろ!」


『あー…謙也は51年後も走り回ってそう』


「そういう、なまえは相変わらず俺を振り回してそう」




お互いあんまり変わらなさそうだね、とまた二人で笑いあう。ああ、いつか互いに好きな人が出来て、結婚して、子どもが出来たりしても、何年経ってもなまえとは純粋にこうやって笑いあっていたいと思うた。