ランピーさんはいつもひどい | ナノ


「やあ。君もお散歩かい?」


今日は天気の良い平和な日曜日だった。朝からショッピングに出かけ、ギグルスとランチにパンケーキを食べたわたしは、ペチュニアと約束があるというギグルスと別れておうちへ帰る前にすこしお散歩をしようと森まで足をのばしていたところだった。森にはいってすこししたところで、後ろから声をかけられたことに気づく。街とは違って静かな森の中で、それは何度も聞いたことのある声だ。振り向くと、やっぱりランピーさんが切り株に腰掛けて笑っていた。
「あ、ランピーさん。いや、ランピー先生?」
いつも私服のランピーさんは今日は白衣を私服の上にはおっていた。それはおそらく今日は俺は先生ですよ、という意思の表れで、こんな日は一ヶ月に何度かあったり、一年に一度だったりするし、一週間続いたり、一日おきだったり、一時間だったりもする。ようはランピーさんの気まぐれだ。だからわたしもそれにのっかって、ランピーさんが白衣を着ている日は、ランピーさんではなくランピー先生と呼ぶことにしている。わたしだってただのきまぐれ。なんだか気分のよくなるきまぐれだ。それはきっとわたしがランピー先生のことがすきだから。だからこうして偶然出会ってしまうことを運命だと呼びたくなるのも恋心の仕業なのだから仕方のないことなのである。運命のある午後。平和な日曜日らしいすばらしい午後だ。
「そう、正解。今日はランピー先生だよ」ランピー先生はひらひらと手を振った。
「お久しぶりですね、ランピー先生。今日は天気がいいから、おうちに帰る前にすこしお散歩しようかと思って」
「天気はいいけれど、そうだなあ。早く帰った方がいいんじゃないかい?君いつもすぐ死んじゃうんだから」
ランピー先生は、はははと笑いながら指先で右耳のピアスに触れた。自分のピアスによく触れるのはランピー先生のくせのようなものだ。ランピー先生のおおきな手のきれいな爪は、いつもはみずいろに染められているのだけれどランピー先生の日は律儀にももとの色に戻っている。今日だってそうだ。わたしはそんなランピー先生の不思議な真面目さがずいぶんとすきだったりする。でも、ランピーさんはいつもわたしのことをよく死ぬ子だと思ってるみたいでそこはあまりすきじゃない。だからいつだってわたしは丁寧に訂正する。それはカドルスに言ってやってくださいよ、って言う。真面目なはずのランピー先生は、一度だってそれを聞いてくれたことはないけど。
「だいじょうぶです。わたしよりカドルスの方がずっと心配。それに、いざとなればスプレンディドが助けてくれるし」
「スプレンディドに助けられれば、やっぱり最終的に君が死んじゃうんだけどね」
それも結構悲惨な感じで。やっぱりランピー先生はわたしの言うことなんて全く聞かずに、長いまつげをふせて、ちょっと口元をほころばせてまた笑った。このひとはまったく見た目だけはよいものだから、どんなことを言ったって絵になってしまうのはずるい。今だって、にこにこと笑っているだけで額縁にいれて寝室の壁に飾りたくなってしまうような出来栄えだ。だからトゥーシーが言えば腹が立ってしまうようなことも、スニフに言われれば落ち込んでしまうようなことも、ランピー先生が言えばそれはすこしやわらかいものになってわたしのなかにすっと入ってきてしまうものだから、わたしはうっと言葉につまってしまうのだ、いつだって。ずるい、という声は声にならずにしぼんでいった。
「だ、だいじょうぶです。ランピー先生こそどうなんですか。のほほんとしてるとしぬのはランピー先生だと思うんですけど」
「僕のことを君なんかと一緒にしないで欲しいな。それに、なんたって今日は僕はお医者さまだからね。お医者さまは怪我をなおす方だろう?」
ランピーさんはご機嫌で、左手で注射器のジェスチャーをしている。「怪我をするのはお医者さまの役目じゃない」にこにこと台詞を付けて。
「じゃあ、お医者さまはおうちでのんびり患者を待ってればいいんじゃないですか?」
「うん、そうだね。いつもだったらそうするんだけどさ」
ランピー先生はよっこらせ、といった具合で立ち上がった。おじさんみたいだ。でもそれを言うとランピー先生は嫌がるだろうからやめておこう。ランピー先生はそんなことを考えているわたしにおかまいなしで、いきなりおおきく両手を広げて、さきほどより少し大きな声で言った。
「だって患者が今日は君だからさ。文字通りの特別出血大サービス。迎えにきてあげたんだ。」
なんですか、それ。だって、今日は平和な日曜日なのだ。わたしはこの後おうちへ帰って、バスタブにあついお湯をためて、バスミルクをいれてゆっくりと沈む。お風呂からあがったら明日スニフに怒られないように宿題だってちゃんとして、今日買ったナッティにあげるキャンディも忘れないように準備して、早めにおふとんへ入ってねむる。そう決めているのだ。平和な日曜日。そんな日だってないとおかしい。だって今日は。
ランピー先生と出会えた、声だってかけてもらえた。それはとてもうれしい。だってわたしはランピー先生がすきだし、つめがみずいろでない真面目さのぶん、ランピーさんよりもっとすきだ。久しぶりに会えたのだから、それはそれは、喜んでいる。でもだからって、今日みたいな平和な日曜日になにかが起きるはあまりうれしくない。いくらランピー先生だといっても痛いのはいやだし、お医者さまにだってできることならかかりたくない。今日偶然会えたのは運命かもしれないけれど、だけど。なんか。いやだなあ。あれ、ランピー先生、さっきからそういう風に笑ってたっけ、

「うん、だから、僕が決めたんだって」
ね、やっぱり運命なんてくそくらえだろう?かちゃり、と音をたててランピー先生がいつもの顔で笑う。運命だなんて考えていることがばれたらはずかしいな。ランピー先生はわたしの考えていることがわかるのかし













「ら」
ぱん。ぱん。ぱん。



「さあ行こうか、患者さんは大人しくしててよね。ただでさえひどい怪我なんだから、君が暴れて僕がおっことしたらもっとひどくなっちゃうし」
「おっと、喋らないでおくれよ。患者はお医者さまの手を煩わせないのが約束だ」
「そうそう、おりこうだね。だいじょうぶ、ちゃんときれいにしてあげるから」
ああ、そういえば、わたしのだいすきなお医者さまのおうちからはいつだって甲高い音が鳴りやまないと噂である。


/どうぞわたしにりぼんを巻いてね

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