光る星は消える/1







その日もFUKO集めは上手くいかなかった。けれどウエスターはそれほど落ち込んではいなかった。だって自分たちは三人のチームだし、自分がうまくできなくてもあの二人がきちんとやれればそれで目標には届くだろうし、だから、できることをしようと思ったのだった。
精神面で、サポートする。つまりドーナツを買ってきた。ふたりとも表情を変えずに黙々と食べるが、そのスピードは支給食料に比べて格段に早いしカケラも残さないのだ。
これであいつらやる気になってくれればいいな。そう考えながら棲み家とする館、三人で住む館に戻ってきた。

エントランスには同僚二人の姿が見えなかったので、FUKOゲージが安置されている広間へ向かった。足音を立てなかったのは大した意味はなかった。もともと戦士の習性が身についていたし、無意識下におどかしてやりたいと思っていたからかもしれない。

「またあいつは失敗したみたいだね」
「ええ。一滴もゲージが貯まってない」
「まったく、あのでくのぼう、さっさと本国に送還されればいいのに…いや、もういっそ消去されたほうがすっきりするな。ねえ、転送ゲートの誤作動を装って消してしまおうか?」
「そういうわけにはいかないわ。メビウス様がわたしたちに与えた備品だもの、粗末に扱うわけにもいかないでしょ」
「そこが一番鬱陶しいところだ。 心配してくださるのはありがたいけれど、僕らふたりで十分じゃないか」
「まったくだわ。いない方がよほど効率がいい、ひどい粗悪品よ。わたしたちとチーム気取りでいるなんて、本当にわずらわしい。あんなもの、ただの亡霊じゃない」






まぶたを開ける。涙が出たなら、痛みを流してしまえたのに、眼球はからからに乾いていて、暗く冷たいものが胸の奥にうずくまったままだった。
開いた視界に真っ先に入ってきたもの、ブリキのバケツ、雑巾、自分の手、西隼人の手。
「隼人ー、なにぼんやりしてたの?」
顔をあげれば、きょとんとした顔で三角巾、エプロン、ゴム手袋、腕まくりの完全おそうじスタイルの東せつながいた。三角巾までするのは、西隼人のように「見た目から入ろう」ではなく真実そうすべきだと考えているからだ。真面目な少女だ。
うららかな春の日差しが、縁側から差し込んでいた。家中の窓や扉は開け放たれ、庭先に真っ白なシーツ、カーテン、ソファカバーなどがはためいては、彼女の選んできた洗濯洗剤のラベンダーの香りをまいていた。
草木と若葉の生きたエネルギーと、長くたたずんできたその小さな家との対比が鮮やかであった。家を守るように寄り添う大きな樹が、風にゆれてさらさらと音を立てた。
「ああ… 昼メシ、なんにしようかと思ってな」
「もう、朝ごはん食べたばっかりじゃない。でもそうね、なにか食べたいものある?」
答えようとしたところで、「わあっ」という声と、なにかが落ちる音。音からすれば割れ物ではない、本かなにかだ、それでも西隼人は軽く駆けた。
「瞬! どうした」
長い黒髪をひとつにまとめた青年は、こどものように照れ笑いした。まくりあげられた袖と裾からのぞく手足が長い。足元には、予想通り、本やらなにやらがこぼれた段ボール。
「あーあ… ああ、大丈夫。段ボールみっつくらい持てるかと思ったんだけど、ちょっとむりしたみたい。隼人みたいにはいかないね」
「どこか打ったか?」
「大丈夫、ありがとう」
その手を引いて起こしてやってから、箱の運搬は自分に任せろと告げた。俺はそういうほうが向いてるんだから、と。ただの事実として。
「今日中に終わるわね、大掃除。さいごにきれいにできそうでよかったわ」
東せつなが微笑んだ。
「家一件とはいえ、案外早く終わりそうだね。みんなでやったから」
南瞬も笑った。

二人の笑顔は同じものではなかったけれど、ひどく馴染んだ一対、ペア、であった。双子のように。
この二人は、ずっとそうだった。

二人と一人のままだけど、もうそれでも構わない。
この二人がすきだ、大切だ、生きる意味だ。
その気持ちは、この胸を開いて探ることができるなら、血と肉のなかにただひとつ輝く宝石としてそこにあるだろう。

遠回りしたけれどそれを知ることができた。今はそれだけで十分だ。
それに、永遠となぞらえて語られる、光る星だって消えるのだ。








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西視点。

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2010/03/15


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