どこにでもある、ありふれたファーストフード店。早朝のそこは客もまばらで、俺の心配は杞憂に終わった。俺と名前二人だと、援助交際に見えないこともないだろ?
俺の斜め後ろを着いてきた名前にメニューを手渡すと、一番安いバーガーセットを指差した。

「遠慮してんのか?」
「いや…、そんなことは」
「好きなもん食えよ、若ェんだからな」

そう笑って言ってやると、名前は何度か目を瞬かせた後季節限定のセットに指先を移動させた。値段が倍に跳ね上がる。
先に席に行くように言って背中を見届けた後、名前のセットとブラックコーヒーを頼む。愛想の悪い若い店員が低い声で少々お待ち下さいませ、と呟いた。接客には向いてねえなあ。

受け取ったトレーを持って、名前を探す。都会ど真ん中にあるこの店はなかなか広いもんで、目当ての顔が見当たらない。二、三度見渡して、小さく舌打ち。その直後視線を向けた先に、いた。困惑したような表情を浮かべた名前の前には、何故か男が座っている。
知り合いか?の割には、あんまり良い顔はしちゃいない。少しの間眺めていると、視線を感じたのか、それともいつまでも戻ってこねェ俺を不思議に思ったのか、名前は男から目線を逸らした。そして、俺を見付ける。

「か、葛西さんっ」

焦りと安堵と、それから縋るような。色んな感情をないまぜにした声で名前は俺を呼んだ。それを合図にして、突っ立ったままだった俺の足は再び動き出した。

「やあ、葛西」

後ろ姿で気付かなかった俺を殴りたい。席まで行ってみれば、座っていたのは五本指の一人、テラだった。普段通りやけに輝いた笑顔を浮かべて俺を見上げる。視界の端で、名前が元々でかい目を更に開いて俺とテラを交互に見ていた。

「え、あの、お知り合いですか」
「うん、というか君や葛西の仲間」
「えっ…あ、すみません気付かなくて、ご挨拶を」
「気にしなくていいよ」

血族だと分かった瞬間肩身が狭そうに縮こまる名前に、テラは人の良い笑顔で言った(血族のくせに、人の良い笑顔って、なあ)。そうして俺の手元のトレーにあるポテトをひとつ、抜き出して齧った。
何時ものことだが、こいつは聞いてもいないことをぺらぺらと喋る。今ここにいる理由も、俺や名前が問う前に自分から話し出した。血族として迎え入れる女の子がいるとジェニュインから聞いた。シックスが目にかけているらしいから気になる。朝早く部屋へ行ったがいなかった。しょうがないので聞き込みをすると、部下の一人が朝食を取りに行ったと教えてくれた。探した。そして見つけた。僕ってすごい。…要するに、こういうことらしい。
節々にナルシストな発言が目立ったが、名前はふんふんと熱心に聴いていた。その様子に満足したように笑うテラ。

「いい子そうで良かったよ、葛西にセクハラされてないかい!」
「くだらねえ疑惑をかける前にな、年配の俺に席を譲りやがれ」

名前が座っていたのは二人用のテーブル。当然だ、俺と自分が座れりゃいいんだからな。
俺がそう言うと、テラは至極不思議そうに首を傾げた。

「どうしてだい、葛西が後から来たんだから葛西が立ってればいいじゃないか!」

殴ってもいいか。



20120404

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