あァ、んん、分かった、おし。ジェニュインの声を聞き流しながらドアノブに手を掛けた。ちょっと最後まで聞きなさい、甲高い声できゃんきゃん喚きやがる奴の奥に見える時計の針は、もう六時を指している。つまり約五時間近く、俺はこの気味悪い場所に拘束されてたってえ訳だ。気分も悪くならァ。ストレスの所為か痛み出した胃を服の上から押さえ付け、片手を振って部屋を出た。最後の奴の言葉「小娘の部屋は最上階よ!」おっと危ねェ、聞き逃さなくて良かった。今のを聞かなけりゃ魔女の懐に逆戻りだった。何メートルか歩いた後、大きく息を吐く。
ジェニュインは嬢ちゃんのことをよく知っていた。シックスや本人から聞いたのか、はたまた勝手に調べ上げたのか。そこはあまり追求しなかったが。
廊下の端にあるエレベーターへ着くと、俺が来るのを待っていたみてえにドアが開いた。特に何も考えず乗り込む。ボタンは押さずとも最上階が光った。

到着したことを知らせる高い音が響いて、視界が広がる。最上階に部屋はひとつしかない。目の前にある重々しい両開きのドアは、俺を圧倒した。
金色のノブに手を掛けて、いや待てよと立ち止まる。こんな早朝に、今時の若いモンは起きてんのか?
まいった、何も考えていなかった。引き返してまた来るのも面倒だ、起きていりゃいいが…らしくなく祈りつつ、俺はノックをすることにした。でかめに、二回。

「はい、どうぞ」

まだ幼い、しかし少女と言うには大人すぎる、恐らく嬢ちゃんの声。「入ってください」二度目に掛けられた声にやっと俺は反応して、ノブを押した。ばがでかい部屋の隅に置かれたこれまたばがでかいベッド、その上に制服姿の…

「名前ちゃん、かい」
「名前、でいいです。葛西さんですよね」

大して、何の印象もなかった。飛びぬけて別嬪でもねえ、かと言って崩れた顔面でもない。スタイルも並。血族にしては、平凡すぎる様な。まァ写真と変わらねえガキ。
どうして俺の名前を知ってるんだ、と問えば、シックスが教えてくれたと答えた。あの方は随分この嬢ちゃんを甘やかしているらしい。部屋のあちこちに散らばった菓子屑や煌びやかな服は、恐らく買い与えられたものだろうな。

気を付けなさい。飲まれかねないわよ

魔女の忠告が浮かんで、それを鼻で笑った。人を見かけで判断するなとどこぞの黒人が言っていた気もするが…油断禁物ってヤツか?
到底危険な人物には見えない。俺が何も言わないでいると、嬢ちゃんは向こうからベッドから飛び降り歩み寄ってきた。俺のそばまで来ると、見上げて笑顔。「これからよろしくお願いします」差し出された小さい手。握手を求めているらしい。断る理由も無く、手を握り返した。






20110226

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